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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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342/473

六法全書は踊らない――臨時ヒロイン内田あかね、感情条文未施行

臨時ヒロイン・内田あかねは、今日も無表情だった。


笑わない。

盛り上げない。

煽らない。


だが――

書類は完璧だった。


ヒロ室に届く契約書、同意書、出演条件、免責条項。

それらがあかねの手に渡ると、赤ペンが走る。


「この“原則として”は削除した方がいいです」

「“可能な限り”は法的に無意味です」

「ここ、責任主体が曖昧なので危険です」


遥室長が言った。


「……助かるけど、怖いわね」


真帆は静かにうなずいた。


「法は感情を持たない。彼女も同じ」


問題は――

イベントステージだった。


ある日、交通安全イベントに投入されたあかねは、

兵庫県警から出向中の婦人警官・岡本玲奈とコンビを組まされた。


名付けて、

「社会の木鐸もくたくコンビ」。


誰が名付けたのかは不明だが、

名前だけはやたら立派だった。


ステージ開始。


玲奈が敬礼し、

あかねが一歩前に出る。


「本日は道路交通法第七十条、

安全運転義務について説明します」


会場が、静まる。


「同条は抽象的規定ですが、

判例上は“具体的危険の予見可能性”が――」


前列の子どもが、母親の袖を引っ張った。


「ママ、いつ終わるん?」


内容は、めちゃくちゃ有益だった。


横断歩道での注意点。

自転車の一時停止義務。

スマホ操作の危険性。


だが――

盛り上がらない。


拍手は、

「講演会が終わった時のやつ」。


美月が袖でつぶやいた。


「これ、戦隊ヒロインのイベントやんな……?」


綾乃は扇子を閉じながら言った。


「大学の公開講座や思たわ」


あかねは気づいていない。


観客が引いていることに。

空気が冷えていることに。


なぜなら、

正しいことを言っている自覚しかないからだ。


「法的に重要な点は伝えました」


と、終了後に淡々と報告した。


問題は、

表情だった。


ファンサービスで、

子どもが言った。


「ねえお姉さん、笑って?」


あかねは一秒考え、答えた。


「業務に含まれていません」


母親が吹き出した。


真帆は頭を抱えた。


「法曹界を目指してるのは分かるけど、

ヒロインとしては致命的よ……」


あかねは静かに返す。


「感情表現は、裁判では不要です」


「ここは法廷じゃない!」


それでも、

あかねは必要だった。


契約トラブルは激減。

クレームは未然に防止。

イベント運営は異常に安定。


誰かが言った。


「彼女がいると、事故が起きない」


別の誰かが言った。


「でも、盛り上がりもしない」


最終的に、

あかねの立ち位置は決まった。


ステージに立たせない。

だが、現場には必ず連れていく。


本人は特に不満もなく、

今日も六法全書を抱えて控室に座る。


美月が声をかけた。


「なあ、あかねさん

笑う練習とか、せえへん?」


あかねは即答した。


「必要性が立証されていません」


こうして、

内田あかねは今日も無表情で、

誰よりも戦隊ヒロインプロジェクトを

法的に守り続けている。


六法全書は踊らない。

だが――

現場は救われていた。


それが、

鉄仮面ヒロインの

最大の存在価値だった。

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