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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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341/471

鉄仮面は笑わない――臨時ヒロイン内田あかね、感情ログ不明

高島里奈が**「臨時なのに常設扱い」**され始めた、まさにそのタイミング。

もう一人、何の前触れもなくヒロ室に放り込まれた臨時ヒロインがいた。


内田あかね、二十三歳。

東京都府中市出身。


第一印象は、ひとことで言うなら――

表情がない。


笑わない。

驚かない。

テンションも上がらない。


本人曰く「通常運転です」。


あかねの実家は、少々特殊だった。


父親は府中刑務所の看守。

しかも住居は、刑務所敷地内の官舎。


友達を家に呼ぶと、まず門で止められる。


「面会ですか?」

「いえ、遊びに……」

「用件は?」


この時点で、たいていの友人は帰る。


そんな環境で育ったあかねは、

自然と表情を出さない技術を身につけていた。


だが――

その厳格な父親、なぜか一人娘には異常に甘い。


「夜は冷えるから上着持ったか」

「駅まで迎えに行こうか」

「危ないから男と歩くな」


刑務所の屈強な看守が、

娘の前では過保護な父に変身する。


あかねは無言でうなずくだけだが、

内心では「それ、大学院生に言う?」と思っている。


現在のあかねは法科大学院生。


六法全書は、

「読むもの」ではなく「脳内に格納されているもの」。


誰かが不用意な発言をすると、

即座に小声でこう言う。


「それ、表現的にアウトです」

「今のは契約上グレーです」

「その文言、裁判になったら負けます」


ヒロ室スタッフは震えた。


もともと、あかねはアルバイト学生としてヒロ室に出入りしていた。


リーガルチェック。

契約書の確認。

イベント同意書の微修正。


誰も気づかないが、

実は一番地味で、一番重要な仕事をしていた。


そして裏方業務も完璧。


会場設営。

導線整理。

重い機材の運搬。


なぜなら――

大学時代、馬術部。


馬を扱う足腰と、

落ちないバランス感覚。


重い物を持たせると、

静かに、速く、確実。


スタッフが言った。


「……あの人、無音で仕事するな」


そんなあかねが、

なぜ臨時ヒロインに?


理由は単純だった。


「人が足りない」

「現場に出られる」

「法律も分かる」


以上。


本人の意見は、聞かれていない。


初イベント。


衣装を着ても、表情は変わらない。


ポーズも最低限。

笑顔は、ほぼゼロ。


観客の反応は――

薄い。


誰かが囁いた。


「……感情どこ?」


美月が舞台袖で言った。


「なあ、あかね。

もうちょい笑ってええで?」


あかね、即答。


「業務に不要です」


結果。

人気は出なかった。


ファンは増えない。

SNSでも話題にならない。


だが、なぜか――

現場評価だけは異常に高い。


「遅れない」

「ミスしない」

「感情でブレない」


そして何より。


「トラブル時、頼りになる」


里奈が言った。


「……あかねさん、私と真逆ですね」


あかね、少し考えてから答えた。


「補完関係です」


この瞬間、

誰かが悟った。


この二人、セットだ。


こうして、

静かな臨時ヒロイン・高島里奈と

鉄仮面の臨時ヒロイン・内田あかねは、


誰にも派手に歓迎されることなく、

だが確実に、ヒロ室に欠かせない存在になっていった。


人気はない。

笑顔も少ない。


それでも――

現場は今日も、無事に回っている。


それが、

内田あかねという臨時ヒロインの

最大の功績だった。

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