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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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339/466

売れないはずが完売です ― 地味ヒロイン、静かなる物販テロ

その異変は、あまりにも静かに始まった。


ヒロ室の片隅、物販担当の机で、若手スタッフが小さく首を傾げた。

声に出すほどでもない、だが確実に「おかしい」感覚。


「……あれ?」


再確認。

在庫表。

売上チェックシート。

もう一度、目視。


「……里奈さんの、無い……」


高島里奈グッズ。

それは当初、**“売れなくても誰も困らない枠”**として扱われていた。


種類は少ない。

数も少ない。

主張は皆無。


・生成り色のクリアファイル

・小さすぎて見落としそうな缶バッジ

・立っているのか立っていないのか分からないアクリルスタンド


企画会議では満場一致だった。


「まあ、記念に作っとくか」

「本人も控えめやし」

「在庫になっても罪悪感少なそう」


――その程度。


ところが、イベント初日。


開場から二時間後。


物販ブースに、異常な静けさが訪れた。


派手な陽菜グッズ前は賑やか。

美月の前では笑い声。

綾乃の前では写真撮影。


その裏で。


「すみません、里奈さんのファイル、もう無いんですか?」


「え、アクスタ完売?」


「じゃあバッジだけでも……それも?」


物販担当、内心パニック。


「……無いです。全部」


楽屋。


「ちょっと待って」

美月が声を上げた。


「里奈のグッズが、売れた?」


「正確には、完売です」

スタッフが訂正する。


「……あの地味なやつが?」


「はい、その地味なやつが」


部屋の隅で、理世が静かにその会話を聞いていた。


机の横には――

理世グッズの在庫箱。


未開封。

未移動。

新品同様。


理世は感情を表に出さない。

だが、論理的に拗ねる。


「……数の問題では?」


「いえ、比率的にも……」


「動線の問題でしょう」


「それも検証しました」


理世、沈黙。


一方、本人。


「え……売れたんですか?」


里奈は本気で驚いていた。


「すみません、もっと目立たなかったでしょうか……」


「それ以上目立たんかったら、存在消えるで」

美月が即座に突っ込む。


売れた理由を探るため、ヒロ室は簡易分析を始めた。


購入者アンケート。


・「会社に持って行ってもバレない」

・「親に見られても説明不要」

・「部屋に置いても生活感を邪魔しない」

・「見てると落ち着く」


極めつけ。


「推しというより、

人生の余白みたいな存在」


理世はその一文を三回読んだ。


「……意味が不明です」


美音が遠州弁で首を傾げる。

「でも、分かる気はするら?」


「分かるな!」

美月がうなずく。

「あれはな、安心を売っとる」


翌イベント。


里奈グッズはさらに控えめになった。


種類そのまま。

数は半分。


開始一時間。


「……完売です」


理世、目を伏せる。


「……私も、色を減らすべきでしょうか」


「やめとき」

美月が即答。

「それやったら理世が消える」


理世、理知的に頷きながら、拗ねる。


「……市場は、残酷ですね」


イベント後。


里奈は理世に声をかけた。


「あの……気を悪くされていたら……」


理世は静かに首を横に振る。


「いいえ。

これは戦略の差です」


一拍置いて、続ける。


「……ただ、

主張しないという選択肢が、

ここまで強いとは思いませんでした」


それは理世なりの、最大級の敗北宣言だった。


後日、ヒロ室の掲示板に新ルールが貼られた。


《高島里奈グッズ運用方針》

・少品種

・少ロット

・地味厳守

・完売前提


里奈はそれを見て、小さく首を傾げる。


「……私、地味でいいんですよね?」


真帆が淡々と答えた。


「ええ。

あなたは“空気を整える商品”です」


里奈は少し考え、いつものように静かに微笑んだ。


その微笑みが、

今日もまた――

派手な宣伝もなく、

確実に売れていくとも知らずに。

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