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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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337/471

人気の自覚ゼロ――“一般人枠”が一番刺さる日

高島里奈は、その日もいつも通りだった。

会場入りは誰よりも早く、音響卓の横でケーブルをまとめ、ガムテープの端をきれいに折る。折り目は四十五度。剥がしやすさ重視。ヒロインである前に、完全に現場の人間である。


「里奈、もうすぐ開場だよ」

遥室長の声に、里奈は小さく頷いた。


「はい。列整理は十時五分からで大丈夫です。あ、ベビーカーの導線、少し広げたほうがいいかと」


「……臨時ヒロインの発言とは思えないね」


その評価を、里奈は深く受け止めない。

なぜなら彼女は、自分が“評価されている”という自覚を一切持っていないからだ。


問題が起きたのは、開場三分後だった。


「すみません、高島里奈さんって、もういらっしゃってますか?」


受付スタッフが、困惑気味にインカムで連絡を入れてくる。

その瞬間、近くにいたヒロインたちの空気が、一斉に変わった。


「……来たわね」

理世が、氷点下の声で呟く。


「また“ピンポイント指名”ら」

美音は遠州弁でため息をついた。


「え? どこ? 里奈ちゃん今日どこに出るん?」

澪は状況が分かっていない。


当の本人は、折り畳み椅子の脚を調整していた。


「高島里奈さん、いらっしゃいますか?」


スタッフが改めて声をかけると、里奈はきょとんと顔を上げた。


「……はい。私ですが」


その瞬間、受付前にいた中年男性が、深々と頭を下げた。


「いつもありがとうございます!」


里奈は完全にフリーズした。


「……え?」


「今日も資料、完璧でした! 前回のイベントの注意事項、全部活かされてて!」


「あ、あの……それは業務ですので……」


「それがもう、ファンサービスです!」


横で見ていた美音が、思わず口を挟む。


「それファンだら!!」


気づけば、里奈の前に小さな列ができていた。


「写真、一緒にいいですか?」

「サインってお願いできます?」

「今日も現場安定してました!」


里奈は完全に混乱していた。


「……えっと、写真は……演者の方が……」


「いえ、里奈さんで」


「サイン……あの、私、名前書くだけですが……」


「それがいいんです!」


理世が、遠くから冷静に分析を始める。


「恐らく、“無害”“安心”“生活感”の三要素が――」


「分析やめるら!!」

美音が遮る。


澪は首を傾げていた。


「ねえ、これって……人気?」


「そうよ」

真帆が淡々と言った。

「しかも一番厄介なタイプの」


ステージが始まる直前、里奈はようやく状況を理解し始めていた。


「……あの、皆さん。私、今日は裏方で……」


「それがいいんだって」

理世が即答する。

「“出しゃばらない”という行為が、最大のアピールになっている」


「意味が分かりません……」


「分からないままでいいら」

美音が肩をすくめた。

「自覚した瞬間、壊れるタイプだで」


イベントは無事に終了した。

観客アンケートの速報が、控室に貼り出される。


【印象に残ったヒロイン】

一位:高島里奈(静かで安心した/現場が落ち着いていた)


それを見た瞬間、里奈は椅子に座り込んだ。


「……私、何かしましたか?」


全員が一斉に答えた。


「何もしてない」


「それが一番怖いのよ」


帰り支度をしながら、里奈はぽつりと呟いた。


「臨時ヒロインなのに……迷惑じゃないでしょうか」


真帆が、少しだけ笑った。


「迷惑なら、ここまで静かに広がらない」


「……そうですか」


里奈はそう言って、いつも通りカーテンを畳んだ。

角を揃え、空気を整えるように。


誰よりも目立たず、

誰よりも記憶に残る――

そんな存在になっていることに、最後まで気づかないまま。


控室の隅で、美音が小さく呟いた。


「……あれが“玄人受け”ってやつら」


理世は無言で頷いた。


そして次のイベントの申込書には、こう書かれていた。


「出演者希望:高島里奈(できれば裏方兼任)」


里奈は、その紙を見て首を傾げる。


「……業務内容、増えてます?」


誰も答えなかった。

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