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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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335/468

申し訳程度のつもりが完売──高島里奈、グッズ化という事故

臨時ヒロイン・高島里奈の人気は、相変わらず静かだった。

キャーという歓声は上がらない。

だが、現場の空気が安定する。


誰かが倒れそうになる前に椅子が出る。

列が乱れる前にロープが張られる。

クレームが起きる前に謝罪が終わっている。


その様子を見て、業界筋の人間が口をそろえて言った。

「……あの子、玄人受けやな」


玄人受け。

つまり、一般受けしないが、分かる人には刺さるという一番厄介な評価である。


そんな里奈は臨時ヒロイン。

当然、グッズ制作の予定はなかった。


キラキラしたアクスタ? ない。

ド派手なブロマイド? ない。

キャッチコピー? そもそも思いつかない。


「高島里奈・公式グッズ」

この文字列が会議で読み上げられた瞬間、全員が一瞬黙った。


「……誰が買うんです?」

誰かが正直に言った。


だが、その直後に別の声が被さった。

「いや、欲しいって声、地味に来てます」


地味に。

本当に地味に。


・「あの裏方の人のグッズありませんか?」

・「落ち着くから写真欲しい」

・「あの人の名札だけ売ってほしい」


どれも熱量は低い。

しかし数が多い。

一番対処に困るタイプである。


結果、決まった。


「……申し訳程度に作ろう」


申し訳程度。

その言葉を、誰も深く考えていなかった。


完成したグッズは、控えめにも程があった。


・名刺サイズのカード(無表情・無加工)

・A4クリアファイル(背景ほぼ白)

・缶バッジ(直径小さめ)


売り場の一角、しかも端。

照明も弱め。

「ついでにどうぞ」感がすごい。


里奈本人はそれを見て、顔を引きつらせた。

「……すみません、場所取ってしまって」


まだ売ってもいないのに謝っている。


事件は、その日の午後に起きた。


売り子が戻ってきて、真帆に小声で言った。

「……里奈グッズ、なくなりました」


「え?」


「完売です」


「……え?」


最初は聞き間違いだと思われた。

だが在庫箱は空。

伝票には、里奈だけ赤丸。


その横で、美音のグッズはきれいに並んでいた。


売れない代名詞。

不動の在庫王。

美音。


里奈は青ざめた。


「……え、私、何かしました?」


「何もしてないのが問題やねん」

美月が笑いながら言う。


理世が追い打ちをかける。

「美音さんより売れてますね」


その瞬間、里奈は完全に固まった。


「え、え、え……それは……あの……」


喜びより先に出てきたのは、罪悪感だった。


「……美音さんに、申し訳なくて……」


美音は美音で、妙に落ち着いていた。

「まあ、うん。そういう日もあるよね」


その声が逆に重い。


ファンの傾向は明確だった。


「派手なのは疲れる」

「安心したい」

「この人、家にいそう」


ヒロインに癒やしを求める層が、静かに里奈を選んでいた。


「戦わない戦隊ヒロイン」

誰かがそう評した。


里奈本人は、控室で頭を抱えていた。


「……嬉しいんです。でも……」

「でも?」


「……美音さんの分、余ってるのを見ると……」


真帆がため息をついた。

「優しすぎるわ」


遥室長は駿河弁で締めた。

「人気ってのは、本人の都合で出たり引っ込んだりせんのよ」


翌日、追加生産の話が出た。

里奈は即答で拒否した。


「申し訳ないので……」

「いや、商売やから」

「それでも……」


結果、里奈グッズは“少量限定”のままになった。


その結果どうなったか。


・見つけたら即買い

・転売禁止の誓約書

・「持ってる人=通」扱い


さらに静かな人気が加速した。


里奈は今日も、売り場の端で立っている。

派手なポーズはしない。

笑顔も控えめ。


だが、通り過ぎる人が、足を止める。


「……あ、この人」


その一瞬が、

高島里奈という臨時ヒロインの最大の勝利だった。


本人はまだ、

「臨時ですから」

と言い続けているけれど。


――売り場の在庫だけは、もうそう思っていなかった。

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