主役じゃない勇気――臨時ヒロイン、前座に立つ
その辞令は、やけにあっさりしていた。
「高島さん、内田さん。
本日付で臨時ヒロインです」
真帆の声は淡々としており、
遥室長は横で静かに頷いている。
「……え、あの、私たちが?」
里奈は目を丸くし、
あかねは一瞬、思考が停止した。
こうして誕生した二人の臨時ヒロインは、
いきなり大舞台に放り込まれることはなかった。
最初の現場は、
商店街の端っこ、
小学校の体育館、
平日の昼間、観客三十人。
いわゆる――
**「取りに足らないイベント」**である。
これまでは、
澪、沙羅、理世、そして美音といった
“人気の波に乗りきれていないヒロイン”たちが
細々と回してきた場所だった。
「……ここ、控室これだけ?」
「段ボール椅子ですね……」
地味。
とにかく地味。
そして、
そこに投入されたのが、
地味さでは負けない二人だった。
衣装も控えめ。
ポジションも前に出ない。
「今日は皆さん、
主役はこの方々です!」
里奈は笑顔で一歩下がり、
あかねは拍手に徹する。
引き立て役。完全に。
すると、不思議なことが起きた。
「理世ちゃーん!」
「沙羅さん、がんばって!」
――声援が、増えた。
理由は単純だった。
主役が目立つには、
脇が必要だったのだ。
里奈とあかねは、
動かない。奪わない。出しゃばらない。
トークを振り、
リアクションを大きくし、
失敗したら全力でフォロー。
結果。
「今日、なんかウケてない?」
理世が小声で言う。
「……あれ? 拍手多くない?」
沙羅も首を傾げる。
澪は腕を組んで、
少し複雑そうに呟いた。
「……私たち、
ちゃんとヒロインだったんだ」
その日の終演後。
ベイサイドトリニティの三人と美音は、
珍しく控室で穏やかだった。
「……まあ、悪くなかったな」
「拍手、ちゃんと聞こえたし」
「澪後援会のサクラも、今日は控えめだったし」
完全な復活ではない。
だが、溜飲は下がった。
一方、里奈とあかねはというと。
「……なんか、
ずっと拍手してただけでしたね」
あかねが言う。
里奈は笑った。
「でもさ、
あれで主役が輝くなら、
それもヒロインだよ」
後日。
真帆は報告書を見て、
静かに頷いた。
「……想定以上の効果ですね」
遥室長も苦笑する。
「不人気対策として、
臨時ヒロインが効くとは……」
こうして、
臨時ヒロイン制度は
正式に“調整役”として定着する。
目立たない。
前に出ない。
でも、確実に場を回す。
それが――
高島里奈と内田あかねの役割だった。
そして二人はまだ知らない。
この「引き立て役」という立ち位置が、
いずれ
とんでもない評価を呼ぶことになるのを。
だがそれは、
もう少し先の話である。
今はただ、
段ボール椅子に座りながら、
二人は次の小さなイベントの予定を確認していた。
――主役じゃない勇気も、
ちゃんとヒーローだった。




