ヒロインが足りない?――じゃあ私が出ます ―安岡真帆、イベント現場に降臨す―
新橋のヒロ室(戦隊ヒロインプロジェクト推進室)オフィスは、
この日も電話が鳴り止まなかった。
「はい、ヒロ室です」
「はい、ありがとうございます」
「はい、前向きに検討いたします」
受話器を置いては取り、
取りは置いて、また鳴る。
その中心にいるのが、
元国会議員私設秘書にしてフロント兼ヒロイン、安岡真帆である。
「……なるほど、町内会の夏祭りですね」
「規模は小さくても問題ありません」
「はい、“皆さまの戦隊ヒロイン”ですから」
それがヒロ室の合言葉だった。
白石陽菜の人気に加えて
赤嶺美月と西園寺綾乃による秘密裏の大使館占拠事件の解決以降、
イベント出演要請は右肩上がり。
もはや右肩が外れそうな勢いだった。
「……人が、足りませんね」
真帆は淡々と、だが正確に現状を把握していた。
スタッフ兼ヒロインの
小宮山琴音、福永理沙、堀井琴葉も
すでに現場投入済み。
それでも追いつかない。
遥室長が珍しく弱音を吐く。
「……さすがに、回りません」
その瞬間、
真帆は静かに言った。
「では、私が出ます」
一瞬、空気が止まる。
「え?」
「真帆さんが?」
「フロントは!?」
「私がフロントですから」
真帆は涼しい顔で続ける。
「現場に出ても、フロントは私です」
論理が強い。
こうして、
安岡真帆、イベント現場デビューが決まった。
選挙カーのウグイス嬢経験者。
マイクを持たせたら、
その立ち回りは完璧だった。
「皆さま、本日はお集まりいただきありがとうございます」
「戦隊ヒロインプロジェクトは、
地域の皆さまと一緒に歩む活動です」
声はよく通り、
言葉は簡潔、
間の取り方が絶妙。
「……なんか、安心感がすごい」
「司会が政治家レベル」
観客のざわめきも好意的だった。
だが――
それでも足りない。
「……まだ現場が足りませんね」
真帆は、
次の一手をすでに考えていた。
「高島さん」
「はい!?」
呼ばれたのは、
ヒロ室スタッフの高島里奈。
「内田さんも」
アルバイト学生の内田あかねが、
びくっとする。
「……二人とも、
臨時ヒロインとして現場に出てもらいます」
「えええ!?」
だが真帆は続けた。
「平塚美波の慰問活動に同行して、
ゲーム進行やサポートをしていましたね?」
「はい……」
「してましたけど……」
「問題ありません」
即答だった。
「もう十分、ヒロイン活動です」
この提案に、
遥室長も少し考えてから頷いた。
「……確かに。
現場対応力は、折り紙つきですね」
真帆は二人を呼び、
事情を簡潔に説明した。
「無理はさせません」
「ヒーロー役ではありません」
「“一緒に楽しむ係”です」
里奈は苦笑いし、
あかねは少し考えてから言った。
「……勉強になりますよね」
「なります」
真帆はきっぱり言った。
こうして――
ヒロ室は総力戦に突入した。
フロントが現場に立ち、
スタッフがヒロインになる。
それでも回す。
なぜなら。
「皆さまの戦隊ヒロインですから」
その一言が、
この異常な現場を支えていた。
そして誰よりも、
その言葉を本気で実行しているのが――
安岡真帆だった。
ヒロ室の影で、
いや、もはや前線で。
今日も彼女は、
スケジュール表とマイクを両手に、
静かに、しかし確実に、
現場を回している。
――ヒロインが足りなければ、
フロントが出ればいい。
それが、
戦隊ヒロインプロジェクトの現実だった。




