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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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328/460

休暇明け五分、秘書ヒロインは火を消す  ――静かな机上戦争――

宇部での短い休暇を終え、安岡真帆がヒロ室に戻ってきたのは、月曜の朝九時ちょうどだった。

山口の空気を肺いっぱいに吸い、頭も心も整理してきたはずだったが、ヒロ室のドアを開けた瞬間、その静けさは音を立てて崩れた。


「……おはようございます」


挨拶を返す前に、小宮山琴音が青ざめた顔で駆け寄ってくる。


「真帆さん、戻って早々ですみません。ちょっと、これは……」


机に置かれた資料は、イベント構成表とスポンサー要望書。

ぱっと見は、よくある大型自治体イベントだ。しかし真帆は一瞬で“違和感”を拾った。


出演時間が、陽菜だけ異常に長い。

休憩が削られ、医療チェックのタイミングがずらされている。


「……誰が決めました?」


「スポンサー側です。“象徴だから”って」


真帆は何も言わず、自分の席に座った。

カバンを開け、ペンを一本取り出す。その動作はあまりにも落ち着いていて、周囲の緊張感が逆に際立つ。


「まず、陽菜本人には?」


「まだです。今日は別件でリハーサルだけと聞いています」


「それでいいです」


真帆は端末を立ち上げ、淡々と入力を始める。

その背中を見て、ヒロ室スタッフは知っていた。


――この人、怒っている。


怒鳴らない。声も荒げない。

だが、この状態の真帆は一番危ない。


ほどなくして、紗絢と美紀が呼ばれた。


「最近の陽菜の状態で、この構成は可能ですか?」


二人は即答した。


「無理です」

「明確にアウトです」


「ありがとうございます。では“医療判断”として、表に出しましょう」


「スポンサーは?」


「私が処理します」


その言い方があまりに軽いので、美紀が思わず聞き返す。


「……処理、ですか?」


「はい。事務的に」


数分後、真帆はスポンサー企業の窓口に電話を入れた。

声は丁寧で、にこやかですらある。


「確認ですが、出演時間延長の根拠は?」


相手は、いかにも慣れた口調で答える。


「多少無理をしても、“象徴”には出てもらわないと困るんですよ」


真帆はメモを取る手を止めない。


「その発言、公式見解ですか?」


「え? まあ……そうなりますかね」


「承知しました」


電話を切った瞬間、空気が変わった。


真帆は新しいタブを開き、スポンサー企業の過去の政治献金、自治体との契約履歴、過去の不祥事リストを並べていく。

速度は異常だった。


横で見ていた隼人補佐官が、思わずつぶやく。


「……休暇、ちゃんと取ってきました?」


「はい。頭が冴えてます」


「それが一番怖いんですが」


その後の動きは、あまりにも静かだった。


イベント構成は「自治体判断」で即時変更。

スポンサー名は資料から消え、代替企業が差し込まれる。


数日後、その企業の責任者は“別件”で更迭された。


誰も「安岡真帆」の名前を口にしない。

だが、関係者の間では共通認識が生まれていた。


――あの人に触れると、何も起きない代わりに、すべて終わる。


ヒロ室は、何事もなかったかのように通常運転に戻る。


陽菜は元気に帰宅し、本人は何も知らない。

それでいい、と真帆は思う。


デスクに戻り、報告書に一行だけ打ち込む。


「リスク排除、完了」


それを後ろから覗いた波田顧問が、べらんめえ口調でぼやいた。


「ったくよ……休暇明け五分でこれか。血も出ねぇし、煙も立たねぇ。江戸じゃ一番怖ぇやり口だぜ」


真帆は、少しだけ口角を上げた。


だがその目は、すでに次を見ている。


――戦隊ヒロインプロジェクトは、もう“表の仕事”じゃない。

――これは、静かな戦場だ。


そして彼女は知っている。

次に来る圧は、今日よりも露骨で、直接的だ。


それでも、前に立つのは――

このフロント兼ヒロイン、安岡真帆である。

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