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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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327/458

言えないことを持ち帰る街、宇部 ――秘書ヒロインは今日だけ娘に戻る――

安岡真帆が休暇を取る――その事実だけで、ヒロ室は軽くざわついた。

「体調不良?」「国会解散?」「どこかで事件?」と憶測が飛び交ったが、真帆本人は淡々と「帰省です」とだけ言った。余計な説明はない。彼女はそういう人だ。


東京駅から新幹線、さらに在来線を乗り継いで山口県宇部市へ。列車内でスーツを脱ぎ、ようやく肩の力が抜けた気がした。

駅を出た瞬間、真帆は思わず足を止める。空が広い。音が少ない。人の動きが、驚くほどゆっくりだ。


宇部市は瀬戸内海に面した工業都市で、日本を代表する化学メーカーの巨大な工場群が街の背骨のように並んでいる。昼間は白い煙が空に溶け、夕方になると港が柔らかな橙色に染まる。働く街だが、どこか穏やかで、主張が強すぎない。


「……静かすぎる」


思わず漏れた一言に、運転手が笑った。


実家は代々続く土建屋。玄関を開けた瞬間、母の第一声は容赦なかった。

「その顔、東京で何人分の仕事しよるん?」

「三人分くらいです」

「少なっ」


父は新聞を畳みながら、ぼそりと「秘書いうのは、休みも秘書顔なんか」と言った。真帆は苦笑いする。ここでは役職も肩書きも関係ない。ただの娘だ。


翌日、買い物に出ると案の定、あちこちで声をかけられる。

「真帆ちゃん帰っとったんか!」

「テレビ出とるねぇ」

「次は市議か?」


情報が勝手に未来へ飛躍していく。真帆は笑顔でかわす。

「今日はただの帰省です」

本当のことは、何ひとつ言えない。


夜、幼なじみと居酒屋に入ると、遠慮のない言葉が飛んだ。

「お前、戦隊ヒロインとか言うて、怪しい組織に入っとらん?」

「国が絡んでます」

「余計怪しいわ」

このやり取りだけで、真帆は少し救われた。東京では誰も、こんな雑な心配をしてくれない。


帰省最終日、縁側で父が言った。

「言えんこと、増えたな」

真帆は一瞬、黙ってからうなずいた。

「ええ。守るために黙るなら、それは立派な仕事じゃ」

その一言が、胸の奥に静かに落ちた。


空港へ向かう車の中、母は前を向いたまま言った。

「無理はせんでええけぇ」

「でも逃げるんは違う」

「……分かってます」

「ほんなら大丈夫」


東京に戻った真帆は、またフロントに立つ。重たい秘密も、政治の圧も、すべて胸に抱えたまま。それでも、宇部の空気を吸った分だけ、少し強くなれた気がした。


「秘書ヒロイン、業務に戻ります」


その声は、以前よりわずかに柔らかかった。

言えないことを持ち帰り、言えないまま戻ってきた――それでも彼女は、前に立つ。

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