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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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326/471

知らなくてよかったことほど、重たい。

安岡真帆は、その日、

「聞かなくてもよかった話ランキング」の堂々一位を更新した。


しかも、

更新した本人はまったく悪くない。


悪いのは、

波田顧問がコーヒーを飲みながら

あまりにも自然に口を滑らせたことだ。


「……ああ、そういや真帆ちゃん、

 もうフロントやっとるんだから言っとくか」


軽い。

口調が、あまりにもべらんめえで軽い。


その瞬間、真帆は

国家の裏側に片足を突っ込んだ。


話はまず、

「陽菜の誕生秘話」から始まった。


波田顧問は指を折りながら言う。


「この話を知っとるのはな」


一、波田顧問

二、陽菜の養父

三、白石家の家政婦・杉本恵

四、そして――お前さんだ


「……はい?」


思わず、真帆の敬語が壊れた。


「陽菜本人も知らん。

 実父の元総理も知らん」


ここで一拍。


「もし漏れりゃ、政権が吹っ飛ぶ。

 ついでに世界のパワーバランスも崩れる」


――あまりにもサラッと言う。


真帆の脳内では、

「退職代行」と「証人保護プログラム」が

同時にチラついた。


「……あの」

「ワシ、まだ26なんですけど」


「だからだよ」


理不尽にもほどがある。


さらに追い打ちが来る。


「陽菜の不整脈な」

「これもトップシークレットだ」


ヒロ室スタッフですら、

紗絢と美紀、ほんの数名しか知らない。


「下手に広まったら、

 同情、過保護、圧力、全部飛んでくる」


真帆は、

“フロント”という言葉の重さを噛みしめた。


――調整役じゃない。

――防波堤だ。


極めつけはこれだった。


「ジェネラス・リンクと、その周辺な」

「連中は陽菜を狙っとる」


真帆の背筋が、音を立てて凍る。


「だからヒロイン活動を続けさせとる」

「餌だ。動きを探るための」


言葉は乱暴だが、意味は冷酷だった。


陽菜は

守られる存在であると同時に、

囮でもある。


「……そんな話、

 陽菜本人が知ったら――」


「知る必要はねえ」


波田顧問は、珍しく真剣な顔をした。


「笑ってステージに立てるうちは、

 知らせちゃいけねえ」


その夜。


真帆はフロントの机で、

書類を前に完全停止していた。


「地域振興のアイドル活動」

「若者向けプロジェクト」


――最初は、そう思っていた。


だが現実は、


・政権

・国際テロ

・医療機密

・出生の国家機密


全部、同時進行。


「……聞いてないんですけど」


誰に向けたとも分からない愚痴が零れる。


通りがかったスタッフが

「どうしました?」と聞くと、

真帆は即座に笑顔を作った。


「いえ、今日も平和ですね」


――笑顔で嘘をつく。

フロントの基本技能だ。


翌日。


陽菜は、いつも通りだった。


「真帆さーん!

 今日のお弁当、当たりですよ!」


その無邪気さに、

胸の奥がチクリと痛む。


守らなければならない。

何があっても。


そのために、

自分が悪役になるなら、それでいい。


真帆は静かに決めた。


ヒロ室の片隅で、

波田顧問がぼそっと言う。


「お前さん、

 もう普通の人生には戻れねえぞ」


真帆は、少しだけ考えてから答えた。


「……元々、

 楽な道は選んでませんから」


その言葉に、

波田顧問はニヤリと笑った。


「政治向きだな」


「褒め言葉に聞こえません」


その日から、

安岡真帆は一つ理解した。


戦隊ヒロインプロジェクトとは、


夢を見せる舞台であり、

国家の影を背負う装置でもある。


そしてフロントとは、

すべてを知って、何も言わない役だ。


「……知らなくてよかったことほど、重たい」


そう呟きながら、

真帆は今日も書類をさばき続ける。


笑顔で。

何事もなかったように。


ヒロ室は今日も、

一見すると平和だった。


――それが、一番怖いのだと知りながら。

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