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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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323/483

笑顔のまま、首は落ちる ――ヒロ室フロント、安岡真帆という最終兵器

ヒロ室が一番平和なのは、だいたい嵐の直前である。

その日も、表面上はいつも通りだった。


新橋のヒロ室ミーティングスペース。

ホワイトボードにはイベント名、出演者、移動時間がびっしり書かれ、

ヒロインたちは思い思いに準備を進めている。


人気者の陽菜は、椅子に座りながら深呼吸をしていた。

顔色は悪くないが、少しだけ動きがゆっくりだ。


「陽菜、大丈夫?」

詩織が心配そうに声をかける。


「うん、大丈夫。

今日も応援してくれる人、たくさん来てくれるみたいだし」


そう言って笑うが、その笑顔に無理があることを、

近くにいるヒロインたちは皆、薄々感じていた。


問題は、その“お願い”だった。


外部イベント制作会社の若手プロデューサーが、

真帆を通さず、陽菜に直接声をかけていたのだ。


「陽菜ちゃん、やっぱりもう一回ステージ出られるよね?」

「ファンが期待してるし、少しだけだからさ」

「君なら分かってくれると思って」


陽菜は一瞬だけ迷い、そして――頷いた。


「……はい。少しなら」


それを、遠くから見ていた人物が一人。


安岡真帆だった。


彼女はその場では何も言わなかった。

ただ、手帳に小さくメモを取っただけだ。


事件は、その三十分後に起きる。


控室に戻った陽菜が、壁に手をつき、息を整えていた。


「……ちょっと、立ちくらみが」


そこへ香澄と茉莉花が駆け寄る。


「陽菜ちゃん、無理しとらん?」

「これ、明らかにやり過ぎやろ」


そこへ、例のプロデューサーが軽く言った。


「まあまあ、大丈夫でしょ。

人気者なんだから、このくらい“仕事”ですよ」


その瞬間だった。


「――その発言、訂正してください」


声は穏やかだった。

あまりにも穏やかで、逆に空気が凍った。


振り返ると、真帆が立っていた。

いつもの柔らかな笑顔。

だが、目だけが、笑っていない。


「え? あ、何か問題ありました?」


プロデューサーが軽く笑う。


真帆は一歩近づき、静かに続けた。


「まず確認します。

 あなたは、ヒロインの健康管理について、

 どの立場で判断を?」


「いや、現場判断ですけど?」


「なるほど」


真帆は頷き、手帳を閉じる。


「では次に。

 今回の契約書、

 “出演可否の最終判断権”はどなたにありますか?」


プロデューサーは言葉に詰まる。


「……ヒロ室、ですが」


「正解ですけぇ」


その瞬間、真帆の山口弁が、わずかに顔を出した。


そこからは、早かった。


真帆は一切声を荒げない。

ただ、事実を一つずつ並べていく。


・直連絡の履歴

・体調配慮義務の条項

・過去の類似案件

・そのプロデューサーの評判

・そして――“使い捨て”発言の記録


「あなたの発言、

 労務管理、契約、広報、

 どれを取ってもアウトです」


笑顔のまま、告げる。


「あと一つ。

 この件は、表には出しません」


プロデューサーが安堵した、その次の言葉が恐怖だった。


「表に出さない代わりに、

 あなたが二度と表に出られんようにしますけぇ」


結果は、翌日には出ていた。


・そのプロデューサーは現場から即外され

・制作会社は公式に謝罪

・名前はどの業界リストからも消え

・なぜか次の仕事が一切来なくなった


理由は誰も知らない。

だが、誰もが察した。


数日後。


ヒロ室スタッフが小声で囁く。


「……安岡さんってさ」

「笑いながら、銃の引き金引く人だよね」


「しかも、音も出さないタイプ」


一方、真帆本人はいつも通りだ。


「陽菜さん、無理せんでええ。

 守るのが仕事ですけぇ」


陽菜は深く頭を下げる。


「……ありがとうございます」


真帆は少し困ったように笑う。


「礼は要りません。

 それが、私の役目です」


その背中を見送りながら、

ヒロイン全員が同時に思った。


――この人だけは、絶対に敵に回してはいけない。


そしてヒロ室には、今日もまた

静かな平和が戻っていた。


嵐が、完全に処理された後の、

完璧すぎる静けさが。

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