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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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321/471

秘書は増えるよ、仕事も増えるよ ― ヒロ室に現れた最終兵器

――新橋のヒロ室は、今日も戦場だった。


極秘任務とはいえ、とある大使館占拠事件を水面下で解決に導いたという噂が、どこから漏れたのか。戦隊ヒロインプロジェクトは、いまや「正義の象徴」どころか「何でも屋」に進化していた。

イベント出演依頼はもちろん、自治体からの陳情、省庁からの相談、なぜか商店街の福引き抽選会の司会依頼まで舞い込む始末である。


「これ、どっから手ぇつけるん……」


ヒロ室ミーティングスペースで、小宮山琴音が机に積み上がった書類の山を見て、静かに魂を抜いた。

向かい側では、遥室長がいつもの穏やかな駿河弁を封印し、完全に無言でスケジュール表と格闘している。


この二人――通称“静甲コンビ”は、普段なら鉄壁である。

調整力、根回し力、忍耐力、どれを取っても一流。

だが今回は違った。


「……遥さん、これ以上詰めたら、ヒロインが分裂します」

「ですよねぇ……物理的にも精神的にも……」


ヒロイン側も阿鼻叫喚だった。

美月は「全部出たるわ!」と吠え、彩香は「身体が一つしかあらへん!」とキレ、綾乃は「これは政治的判断が必要どす」と言いながら、ちゃっかり紅茶を淹れている。


そのときだった。


ヒロ室のドアが、ノックもなく静かに開いた。


現れたのは、黒のジャケットに白シャツ、無駄のない立ち姿の女性。

年齢は二十代半ば。背筋が伸び、目線は低く、しかし空気を完全に掌握している。


「失礼します。今日からこちらでお世話になります、安岡真帆です」


一瞬、時が止まった。


「……誰?」と美月。

「……秘書さん?」と彩香。

「……ただ者やあらしまへんな」と綾乃。


遥室長だけが、ゆっくりと立ち上がった。

「……お噂は伺ってます。元・国会議員私設秘書の」


真帆は小さく会釈し、机に積まれた書類の山を一瞥した。


「……多いですね。優先順位、付けてます?」

「一応……」と琴音が言いかけた瞬間、真帆はもう動いていた。


書類を三つに分け、ペンを走らせ、付箋を貼り、電話を取り、同時にメモを取る。

しかも無言。


「え、ちょ、今なにが起きてるん……?」と美月が小声で彩香に聞く。

「知らん……でも、仕事できる人の音がする……」と彩香が震える。


十分後。


「はい。陳情案件は三件、延期二件、即対応一件。イベントは被りを解消しました。省庁案件は、こっちは“様子見”で大丈夫です」


遥室長と琴音は、完全に固まっていた。


「……あの、真帆さん」

「はい?」

「……今、何を……?」

「普通のことですけぇ。溜めたら、回らんようになるじゃろ?」


山口弁が、さらりと混じった。


その瞬間、ヒロ室の空気がふっと緩んだ。


「なにそれ、ズルいやん……」と美月。

「標準語で殴って、方言で癒すタイプや……」と彩香。

「これは反則どす」と綾乃が頷く。


それからの真帆は、まさに最終兵器だった。

電話一本で話を通し、相手を立て、こちらの要求を自然に飲ませる。

怒鳴らず、詰めず、だが一歩も引かない。


「無理は無理言うたほうが、あとで楽ですけぇ」


その一言で、何件もの“無茶振り案件”が自然消滅した。


夕方。


ヒロ室には、久しぶりの静けさが戻っていた。


「……生き返った……」と琴音。

「助かりました……本当に……」と遥室長。


真帆は少し照れたように笑い、言った。

「いえ。ここ、守るもんが多いですけぇ。やりがい、あります」


その背中を見て、ヒロインたちは直感した。


――この人は、前に出るヒロインじゃない。

――でも、いないと全部が崩れる人だ。


「なあ美月」

「ん?」

「この人、怒らせたら一番怖いやつやと思わへん?」

「……うん。静かに殺しに来るタイプや」


その日、ヒロ室に新しい肩書きが生まれた。


“フロント兼ヒロイン・安岡真帆”。


戦隊ヒロインプロジェクトは、

また一段、**現実に強くなってしまったのであった。

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