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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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320/471

火の国から来た安定感 ― 船橋経由・熊本背負いヒロイン西里香澄

熊本から上京して、まだ数週間。

 にもかかわらず、西里香澄はもう完全に“東京の人”だった。


 ――正確に言うと、船橋の人である。


「東京は怖かとこって聞いとったばってん、船橋は優しかですねぇ」


 初日にそう言っていた香澄は、今や京成線もJRも迷わず使い分け、

 東船橋駅前のスーパーの特売日まで把握している。


「この時間帯は総菜が安くなるけん、先に買っとくとよ」


 もはや新人ではない。

 生活導線が完成しているヒロインという、謎の称号を獲得していた。


 イベント当日。

 香澄は戦隊ヒロイン制服に身を包み、ステージ袖で深く息を吸う。


 ――船橋から見る熊本。

 距離は遠い。空気も違う。

 それでも、熊本を離れたからこそ、はっきり見えるものがあった。


「熊本は、あったかかですね」


 そう呟いて、ステージへ出る。


 観客の反応は相変わらず上々だった。

 落ち着いた声、間の取り方、子どもへの視線の高さ。


「くま◯ンのお姉さーん!」


 呼ばれるたびに、香澄は笑顔で手を振る。

 熊本を背負っているという自覚が、表情ににじんでいた。


 舞台裏では、年下ヒロインたちが自然と集まってくる。


「香澄さん、さっきの立ち位置どうでした?」

「香澄さん、あの子泣きそうでしたよね?」

「香澄さん、MCの入り方なんですけど……」


 香澄は一人ひとりの顔を見て、丁寧に返す。


「大丈夫たい。今のはちゃんと伝わっとった」

「次は少しだけ声落としてみらんね」

「慌てんでよか。客席はちゃんと味方だけん」


 その様子を見て、古参ヒロインが首をかしげる。


「……この人、何年目だっけ?」

「え、今年加入だよね?」


 加入即・安心感MAX。

 それが西里香澄だった。


 イベント後、ヒロ室でのミーティング。

 遥室長が珍しく少し真面目な声で話し出す。


「香澄さん。今後の話、少しええ?」


 駿河弁が、ほんのり抑えられている。


「九州全土での展開を、そろそろ本気で考えたいと思っとる」


 香澄は背筋を伸ばした。


「九州は地理的にも重要な地域だし、

 将来的には拠点になる可能性も高い」


 ――安全保障。

 その言葉が出た瞬間、場の空気が少し変わる。


「その時、中心になって動いてほしい人がおる」


 遥室長は、まっすぐ香澄を見る。


「香澄さん、あんたや」


 一瞬、香澄は言葉を失った。


「……私で、よかとですか」


「よかも何も、適任だら」


 即答だった。


 そこへ、追い打ちのように入る連絡。

 熊本産業交通からだった。


「香澄、聞いたばい。戦隊ヒロイン、九州で本格展開するっち?」


 電話口の声は、妙に張り切っている。


「うちは観光バスも高速バスも九州全土に網張っとるけんね」

「全面協力するばい」

「香澄は、会社の顔でもあるけん」


 広告塔。

 その言葉に、香澄は小さく笑った。


「……背負うもんが、また増えましたね」


 電話を切ったあと、香澄は制服の右袖を見る。

 そこにある、くま◯ンのワンポイント。


 熊本。

 会社。

 戦隊ヒロイン。

 そして、これからの九州。


 背負うものは、確かに重い。


 でも――


「火の国の人間は、重かもんほど燃えるとです」


 そう言って、香澄は笑った。


 その笑顔は、どこか覚悟を帯びていた。


 こうして、

 火の国を背負うヒロイン・西里香澄の第一章は、静かに幕を下ろす。


 ――次に燃え上がるのは、九州全土だ。


 誰もが、そう予感していた。

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