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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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319/457

右袖が渋滞中!──くま◯ンから始まる戦隊ヒロインご当地自慢

西里香澄が戦隊ヒロインプロジェクトに合流して、まだ一か月も経っていない。

 にもかかわらず、現場ではすでにこんな声が飛び交っていた。


「香澄さん、あれ何年目でしたっけ?」

「新人……ですよね?」


 本人は笑って首を振る。


「オールドルーキーたい。年季だけは入っとります」


 その言葉通り、香澄は完全に“場の人”になっていた。

 進行の間合い、子どもとの距離感、ステージ袖での無言のフォロー。

 新人特有の空回りが一切ない。むしろ落ち着きすぎていて、若手がつられて安心するレベルだ。


 そして、彼女が一気に子どもたちのハートを掴んだ理由――

 それは、戦隊ヒロイン制服の左袖にあった。


「くま◯ンのおねえさーん!」


 客席から、元気な声が飛ぶ。

 香澄の右袖には、熊本県民の魂を背負った黒いあのシルエット。

 小さなワンポイントだが、破壊力は抜群だった。


「くま◯ンおる!」

「く◯モンの人、やさしか!」


 いつの間にか香澄は、

 西里香澄 → 熊本の人 → くま◯ンのお姉さん

 という三段進化を遂げ、完全に子ども向け人気枠を確立していた。


 これを見逃さないのが、戦隊ヒロインたちである。


「え、あれ可愛くない?」

「右袖だけなら統一感も崩れへんし」

「私も地元のやつ入れたいかも……」


 こうして、右袖ご当地ブームが静かに、しかし確実に始まった。


 真っ先に動いたのは――

 千葉の叡智にして郷土愛の権化、館山みのりだった。


「千葉を背負わない理由がないよね?」


 そう言って披露した右袖には、

 房総半島をモデルにした「チー◯くん」。


「え、公式じゃないよね?」

「でも“魂的に”公式」


 みのりは満足そうにうなずいた。


 続いて、広島ののどか。

 彼女の左袖には、静かに折られた折り鶴。


「派手じゃなくていいんです。祈りなので」


 場の空気が一瞬だけ清らかになる。


 紀州の舞姫・麻衣は、迷わなかった。


「実家のみかんです!」


 鮮やかな橙色。

 誰がどう見ても、みかん。


「それ、剥けへんよな?」

「剥けません!」


 江戸っ子ギャル・月島小春は、

 右袖に粋な**「め組」**。


「江戸は火消しよ。理由? かっこいいから」


 歌姫・藤原詩織は、少し照れながら音符。


「……歌しかないので」


 こうして控室は、完全に右袖品評会と化した。


 そんな中、人気者の白石陽菜が静かに呟く。


「……私も入れたかった」


「相模原の名産とか?」

「ギョーザとか?」

「JAXA?」


 しかし現実は非情だった。

 陽菜の制服は、バトントワラー風ノースリーブ。


「……私のは無理じゃん……」


 肩を落とす陽菜。

 その背中に、みんながそっと同情する。


 そこへ、ぼそっと声が入る。


「それ、私が最初だよ」


 川崎市の澪だった。


「頼んでもないのに、右袖に川崎市の市章入ってた」


 一瞬、沈黙。


「……え?」

「……勝手に?」


 澪は淡々と言う。


「気づいたら入ってた。たぶん後援会」


 爆笑。


「先取りすぎるやろ!」

「右袖は自由枠だったのか……」

「川崎、強すぎない?」


 香澄はその様子を見て、ふっと微笑んだ。


「よかですね。みんな背負っとるもんが見えて」


 左袖も、右袖も。

 地元も、想いも、勝手に入れられた市章も。


 戦隊ヒロインたちは、今日もそれぞれの“背負い物”をつけて、ステージに立つ。


 そして子どもたちは叫ぶ。


「くま◯ンのお姉さーん!」

 香澄は今日も、熊本を背負って、にこやかに手を振るのだった。

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