右袖が渋滞中!──くま◯ンから始まる戦隊ヒロインご当地自慢
西里香澄が戦隊ヒロインプロジェクトに合流して、まだ一か月も経っていない。
にもかかわらず、現場ではすでにこんな声が飛び交っていた。
「香澄さん、あれ何年目でしたっけ?」
「新人……ですよね?」
本人は笑って首を振る。
「オールドルーキーたい。年季だけは入っとります」
その言葉通り、香澄は完全に“場の人”になっていた。
進行の間合い、子どもとの距離感、ステージ袖での無言のフォロー。
新人特有の空回りが一切ない。むしろ落ち着きすぎていて、若手がつられて安心するレベルだ。
そして、彼女が一気に子どもたちのハートを掴んだ理由――
それは、戦隊ヒロイン制服の左袖にあった。
「くま◯ンのおねえさーん!」
客席から、元気な声が飛ぶ。
香澄の右袖には、熊本県民の魂を背負った黒いあのシルエット。
小さなワンポイントだが、破壊力は抜群だった。
「くま◯ンおる!」
「く◯モンの人、やさしか!」
いつの間にか香澄は、
西里香澄 → 熊本の人 → くま◯ンのお姉さん
という三段進化を遂げ、完全に子ども向け人気枠を確立していた。
これを見逃さないのが、戦隊ヒロインたちである。
「え、あれ可愛くない?」
「右袖だけなら統一感も崩れへんし」
「私も地元のやつ入れたいかも……」
こうして、右袖ご当地ブームが静かに、しかし確実に始まった。
真っ先に動いたのは――
千葉の叡智にして郷土愛の権化、館山みのりだった。
「千葉を背負わない理由がないよね?」
そう言って披露した右袖には、
房総半島をモデルにした「チー◯くん」。
「え、公式じゃないよね?」
「でも“魂的に”公式」
みのりは満足そうにうなずいた。
続いて、広島ののどか。
彼女の左袖には、静かに折られた折り鶴。
「派手じゃなくていいんです。祈りなので」
場の空気が一瞬だけ清らかになる。
紀州の舞姫・麻衣は、迷わなかった。
「実家のみかんです!」
鮮やかな橙色。
誰がどう見ても、みかん。
「それ、剥けへんよな?」
「剥けません!」
江戸っ子ギャル・月島小春は、
右袖に粋な**「め組」**。
「江戸は火消しよ。理由? かっこいいから」
歌姫・藤原詩織は、少し照れながら音符。
「……歌しかないので」
こうして控室は、完全に右袖品評会と化した。
そんな中、人気者の白石陽菜が静かに呟く。
「……私も入れたかった」
「相模原の名産とか?」
「ギョーザとか?」
「JAXA?」
しかし現実は非情だった。
陽菜の制服は、バトントワラー風ノースリーブ。
「……私のは無理じゃん……」
肩を落とす陽菜。
その背中に、みんながそっと同情する。
そこへ、ぼそっと声が入る。
「それ、私が最初だよ」
川崎市の澪だった。
「頼んでもないのに、右袖に川崎市の市章入ってた」
一瞬、沈黙。
「……え?」
「……勝手に?」
澪は淡々と言う。
「気づいたら入ってた。たぶん後援会」
爆笑。
「先取りすぎるやろ!」
「右袖は自由枠だったのか……」
「川崎、強すぎない?」
香澄はその様子を見て、ふっと微笑んだ。
「よかですね。みんな背負っとるもんが見えて」
左袖も、右袖も。
地元も、想いも、勝手に入れられた市章も。
戦隊ヒロインたちは、今日もそれぞれの“背負い物”をつけて、ステージに立つ。
そして子どもたちは叫ぶ。
「くま◯ンのお姉さーん!」
香澄は今日も、熊本を背負って、にこやかに手を振るのだった。




