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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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318/460

右袖にクマの魂、左胸にバス会社──熊本発・戦隊ヒロイン西里香澄、堂々デビュー

 戦隊ヒロインプロジェクトのイベント会場で、最初に異変に気づいたのは客席ではなく、ステージ袖にいた隼人補佐官だった。


「……あれ? もう三年くらい前からおる人みたいな立ち方しとるな」


 新人ヒロインのはずの西里香澄が、マイクを持って一歩前に出る。その瞬間、場の空気がすっと落ち着いた。

 歓声は上がるが、どこか安心感がある。ざわつかない。

 まるで――観光バスが発車する前の、あの独特の「任せて大丈夫」な空気だ。


「本日はお越しいただき、まことにありがとうございます。熊本から参りました、西里香澄です」


 透き通る声。よく通る。張り上げていないのに、最後列まで届く。

 これには隼人補佐官も、思わず腕を組んでうなずいた。


「そら会社も手放さんわ……」


 西里香澄、二十四歳。

 生まれも育ちも熊本市。高校卒業後、地元の老舗バス会社・熊本産業交通に入社し、バスガイド一筋で生きてきた女である。


 清楚で古風、どこか昭和の香りを残した佇まい。

 熊本出身の有名な美人演歌歌手を思わせる顔立ちに、穏やかな熊本弁。

 それでいて、声は澄み切っている。


「次は阿蘇の外輪山が見えてまいりますけんね〜」


 この一言で、車内が静まり返る。

 香澄のガイドは、説明が上手いというより“聞きたくなる”。

 結果、彼女の担当ツアーはリピーター続出。ついには「西里香澄ガイド同行ツアー」なる商品まで誕生した。


 さらに厄介なのは――

 マイクを持たせると、歌まで上手い。


 宴会場で何気なく歌った一曲が、拍手喝采。

 「ちょっと一節」のつもりがアンコール。

 後輩の面倒見も良く、職場では“若手なのに姐さん枠”。


 そりゃあ会社も言う。


「西里ば、出すわけにいかんでしょうが!」


 それでも香澄は、悩んだ。

 熊本を出るつもりは、正直なところ一ミリもなかった。


 だが――

 「一度、外から熊本を見てみたか」


 この思いが、どうしても消えなかった。


 紆余曲折の末、熊本産業交通から“全面バックアップ付き出向”という異例の形で、戦隊ヒロインプロジェクトに参加。

 制服の右袖には熊本のゆるキャラ、左には社章。

 背負っているものの重さを、香澄はよく分かっていた。


「熊本ば、恥ずかしか姿では出られんですけん」


 その覚悟は、研修中から際立っていた。

 段取り、立ち位置、声の通し方。

 新人がつまずくポイントを、全部さらりとクリアしていく。


 デビューイベント当日。

 詩織がマイクのコードに絡まり、陽菜が進行表を逆さに持って右往左往していると、香澄は自然に間に入った。


「はいはい、詩織ちゃん一回落ち着こ。陽菜ちゃん、それ上下逆たい」


 二人は即座に正気に戻る。


「香澄さん……お姉ちゃん……」

「す、すみません……」


 いつの間にか、香澄は年下ヒロインたちのお姉さん役に収まっていた。


 隼人補佐官は、その様子を見て思わず苦笑する。


「口説き落としたつもりが、現場の背骨まで連れてきてしもうたな……」


 イベント終了後、控室。

 香澄は制服の右袖をそっと撫でる。


「熊本は、置いてきたわけじゃなか。背負って来たとです」


 その言葉に、なぜか拍手が起きた。

 誰が始めたのか分からないが、場は妙に温かい。


 こうして――

 熊本を背負う戦隊ヒロイン・西里香澄は、

 派手さより信頼で、

 爆笑より安心感で、

 静かに、しかし確実に居場所を掴んでいくのだった。


 なおこの後、

 「バスガイド目線でのイベント導線改善案」を提出し、

 ヒロ室スタッフ全員を震え上がらせたことは、また別の話である。


――熊本の魂、今日も右袖に。

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