一週間で東京ば覚えた女 ― 熊本バスガイド、京葉に降り立つ
西里香澄が、熊本空港で搭乗案内を待っていたとき。
胸の中は、ワクワクよりも責任感でいっぱいだった。
「……東京、空から入るとこがもう別世界たい」
プロペラ音ではない、
ジェット機特有の低い唸り。
“仕事”で乗る飛行機ではない、
人生の節目としてのフライト。
窓側席。
離陸の瞬間、熊本の街が小さくなっていく。
「行ってきます」
誰にともなく、そう言った。
■ 羽田空港、情報量の暴力
羽田空港に到着した瞬間、
香澄は固まった。
「……空港が、もう町たい」
熊本空港の“顔が見える感じ”と違う。
通路が広い。
案内板が多い。
人の流れが止まらない。
そこへ現れたのが、
上京ヒロイン生活サポート班。
・距離感ゼロの江戸っ子ギャル 月島小春
・理路整然、千葉の叡智 館山みのり
・現実担当の 高島里奈
・フットワーク最強の 内田あかね
小春が両手を広げた。
「香澄ちゃん! 東京へようこそ!」
「まずは迷うから安心して!」
全然安心できない。
■ 船橋市、新生活開始
拠点は千葉県船橋市。
理由はみのりの即断。
「交通網、生活コスト、通勤効率」
「総合的にここが最適です」
香澄は思った。
(……説明が、観光案内より分かりやすか)
引っ越し当日、
部屋のレイアウトを巡って即カオス。
「ソファは窓側!」と小春。
「生活動線が死にます」と里奈。
「段ボールどこですかー!」とあかね。
香澄は微笑んだ。
「修学旅行の初日みたいですね」
■ 東京最大の難所:鉄道
翌日、単独行動。
香澄、即詰む。
「JR…地下鉄…私鉄…」
「同じ色で違う線は反則たい」
改札を出たら別の路線。
乗ったら終点が違う。
「……これは案内板が悪か」
だが三日目。
香澄の目が変わった。
「路線は“人の流れ”」
「時間帯で混雑は変わる」
バスガイド脳が、
東京に適応し始めた。
■ 一週間後、立場逆転
集合場所。
小春が軽く聞く。
「今日どこ行く?」
香澄、即答。
「午前は浅草」
「午後は上野」
「移動は銀座線が一番楽です」
全員、沈黙。
みのりが確認する。
「……なぜその判断を?」
「観光動線と人流です」
「熊本でも毎日考えとりました」
里奈が呟く。
「……私より詳しい」
あかねが笑う。
「私たち、案内されてますよね?」
■ 東京を“案内する側”へ
香澄はもう、
東京を“暮らす場所”ではなく
“案内できる場所”として見ていた。
「皇居は午前中」
「夕方は湾岸」
「迷う前提で動線組むと楽です」
小春、大爆笑。
「向いてるわ、香澄ちゃん!」
香澄は少し照れた。
「まだ慣れ途中ですけど」
「……嫌いじゃなかです、東京」
■ 船橋の夜、たこ焼き屋前
夜。
船橋駅前でたこ焼きを食べながら。
あかねが言う。
「東京って大変ですね」
香澄は、静かに頷いた。
「熊本とは全然違います」
「でも、案内できる場所が増えるのは楽しかです」
みのりと小春は、目を合わせて微笑んだ。
――こうして。
熊本のバスガイドは、
飛行機で上京し、
一週間で東京を覚えた。




