首は縦に振らんばい ― 産業バスvs国家案件
熊本産業交通・本社応接室。
その日、空気はやけに重たかった。
「……で?」
「今度は誰が来なすったですか」
腕を組んだ営業部長の声は、
阿蘇山の噴火予報並みに低かった。
「内閣府、隼人補佐官です」
その瞬間、室内の全員が
「ほう」とだけ言った。
だが――
首は、誰一人として縦に振らん。
■ 第一ラウンド:若手官僚、単騎突入
「西里香澄さんの件ですが――」
隼人補佐官は、資料を広げ、
冷静に、丁寧に、論理的に話した。
・戦隊ヒロインプロジェクトの公共性
・九州展開における交通連携の重要性
・香澄の“地域の顔”としての価値
理屈は完璧だった。
しかし。
「ばってんですね」
営業部長が、にこりともせず言った。
「理屈は分かっとります」
「ばってん、うちのエースは出さん」
課長が頷く。
「香澄は商品じゃなか」
「人材です」
「しかも、うちが育てた」
専務が一言。
「若か官僚さん」
「熊本ば、なめたらいかん」
隼人補佐官、内心で思う。
(――これが肥後もっこすか……!)
■ 第二ラウンド:粘りの官僚、なお折れず
翌週。
隼人補佐官は再び現れた。
今度は、
・協業スキーム
・出向制度
・ブランド相互活用
完璧な“落としどころ”を用意して。
だが。
「出向?」
「期限付き?」
「そげんもんで安心できるとですか」
「香澄が疲れたら誰が守るとですか」
「東京は冷たかとでしょう」
隼人補佐官、思わず苦笑。
「……それは、私が守ります」
一瞬、沈黙。
だが専務は、首を横に振った。
「情は評価する」
「ばってん、信用は別」
完敗だった。
■ 最終ラウンド:熊本連合、出陣
そして、ついに。
応接室に現れたのは――
熊本県庁幹部職員
国交省九州整備局・局長クラス
空気が、変わった。
「いやぁ、今日は“相談”に来ました」
県庁幹部は、柔らかく笑う。
「西里さんの活躍は、
熊本にとっても誇りです」
局長が続ける。
「九州での公共イベント」
「地域交通と文化の連携」
「産業バスさんの協力があってこそです」
営業部長が、ゆっくり息を吐いた。
「……国も県も、そこまで言うなら」
専務が、しばらく黙り込み――
やがて、言った。
「条件がある」
全員、身構える。
「出向扱い」
「籍は熊本産業交通に置く」
「九州イベントでは、うちのバスを使う」
「香澄は“熊本の人”として前に立つ」
一拍置いて。
「それが飲めるなら、首を縦に振る」
隼人補佐官は、深く頭を下げた。
「……ありがとうございます」
■ 香澄の決意
その話を聞いた香澄は、
しばらく言葉が出なかった。
「会社が……
そこまで守ってくれたんですか」
専務は、ぶっきらぼうに言った。
「当たり前たい」
「育てた娘ば、簡単に手放すか」
香澄は、深く頭を下げた。
「……一生、この恩は忘れません」
■ 新たな形のヒロイン
こうして香澄は、
熊本産業交通からの出向として
戦隊ヒロインプロジェクトに参加することになった。
九州イベントでは、
産業バスの車両が並び、
「公式サポート」の文字が躍る。
香澄は思う。
熊本を出たんじゃない。
熊本を、背負って前に出たんだと。
そして今日も、
バスのマイクを握る。
「皆さーん、
本日は戦隊ヒロインイベントに
ご参加いただき、ありがとうございます」
その声は、
どこまでも、熊本だった。




