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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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313/471

渋滞は止まっても、空気は止めない ― 熊本バスガイド、現場を制圧す

九州各地を巡る戦隊ヒロインイベントツアーは、三泊四日という、体力・精神力・忍耐力のすべてを試される行程だった。

移動は熊本産業交通バスを一台丸ごと貸し切り。

バスの中にはヒロイン、ヒロ室スタッフ、機材係、なぜか同行しているまさにゃん室長代理まで詰め込まれている。


そのバスの通路に、背筋を伸ばして立っていたのが――

熊本産業交通バス所属、バスガイドの西里香澄だった。


熊本弁がほんのり混じる、やわらかい口調。

でも声はよく通り、説明は無駄がない。

「プロやな」と思わせるタイプの人間である。


一日目は問題なかった。

二日目の午前中までは。


高速道路上で事故が発生し、バスは見事に渋滞に捕まった。


「……まだ動かへんの?」

「このままやとリハ押すやん」

「最悪、出番順変えなアカンやつやん」


スタッフの声が次第に尖り始める。

ヒロインたちもざわつき出した。


そして、当然のように始まる――

赤嶺美月と西川彩香の、いつもの子供じみた喧嘩。


「今日は私が真ん中や言うたやろ!」

「何言うてんねん! 昨日あんた真ん中やったやろが!」

「それは昨日の話や!」

「今日も同じ顔やんけ!」


誰も止めない。

いや、正確には止められない。


その瞬間だった。


「はい、ちょっとよろしかですかー」


穏やかな声。

だが、不思議と車内のざわつきがスッと引いた。


香澄がマイクを手に取っていた。


「現在、前方で事故がありまして、完全に流れが止まっとります。

怒っても、車は動きません。

けん、今は落ち着いていただけると助かります」


淡々と、しかし的確に状況を説明する。

到着予想、会場への連絡状況、代替案まで一気に話す。


スタッフが思わずメモを取り始める。


さらに香澄は、喧嘩の中心にいる二人に目を向けた。


「それから……そこのお二人さん」


美月と彩香がピタッと黙る。


「ステージの立ち位置は大事ですたい。

ばってん、今は“座っとる席順”で決めましょ。

あとでちゃんと話せばよかです」


一瞬の沈黙。


「……まあ、ええか」

「今はしゃあないな」


なぜか二人とも素直に従った。


車内から拍手が起きそうになるのを、スタッフが必死でこらえる。


結局、イベントは遅れながらも無事開催。

観客対応も進行も大きな混乱はなかった。


その夜。


宿のロビーの片隅で、

隼人補佐官と波田顧問が小声で話していた。


「……あのバスガイド、現場判断が異常に早い」

「クレーム対応、場の空気の掴み方、全部プロだな」

「九州展開、ああいう人材が一番要る」


数日後、香澄は水面下で呼び出される。


「戦隊ヒロインプロジェクトに、参加する気はありませんか?」


唐突な誘いに、香澄は一瞬言葉を失う。


「わたし、バスガイドの仕事が好きなんです」

「会社にも相談せんと……」


そう言いながらも、目は少しだけ輝いていた。


「ばってん……

“案内する場所”が変わるだけなら、悪くなかですね」


返事は保留。

だが、本人はどう見ても前向きだった。


もっとも――

バス会社との調整、立場の問題、スケジュール、

そして何より、戦隊ヒロインという世界のクセの強さ。


香澄の加入には、

まだいくつものハードルが待ち構えている。


だがこのとき、

誰もが一つだけ確信していた。


――この女、現場向きだ。


渋滞は解消したが、

物語は、ここからが本番である。

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