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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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312/460

自称エース vs 噛めば噛むほど系 ―東北センター争奪戦、静かに勃発―

盛岡の中野柚希という存在は、

戦隊ヒロインプロジェクトの中でも少し不思議な立ち位置にあった。


 派手な必殺技もない。

 声を張り上げて煽ることもない。

 SNSで自分語りを連投することもない。


 なのに――


「……あの人、なんか“残る”よね」


 誰かがそう言い出すと、

 皆がなんとなくうなずいてしまう。


 それはまるで、

南部せんべいのような存在感だった。


 最初は地味。

 味も素朴。

 だが噛めば噛むほど、

 「これ、無いと困るな……」と思わせてくる。


 そして、その存在を

誰よりも快く思っていない人物がいた。


 ――佐々木玲香である。


「おかしくないですか?」


 新橋ヒロ室、珍しく静かな午後。

 玲香は腕を組み、はっきりと不満を口にした。


「東北の展開って、

 私が中心になる前提じゃないんですか?」


 その言葉に、空気が一瞬だけ固まる。


 遥室長は、いつもの穏やかな駿河弁で返す。


「玲香さんが大事な戦力なのは変わらんよ。

 でも“中心は一人”って決める話でもないでしょ?」


「でも!」


 玲香は語気を強める。


「私は仙台です。

 杜の都ですよ?

 東北の顔って言ったら普通、仙台じゃないですか」


 その瞬間、

 部屋の隅で資料を読んでいた柚希が、

 顔を上げた。


「……あの」


 南部弁が、静かに響く。


「“顔”って、そんなに一つで決めるもんでもねぇと思います」


 玲香の眉が、ピクリと動く。


「それ、どういう意味です?」


「そのままの意味です。

 盛岡は盛岡なりに、

 仙台は仙台なりに、

 役割があるんでねぇべか」


「……つまり?」


「誰かが“エース”じゃなくても、

 ちゃんと回るって話です」


 悪気は一切ない。

 だが、それが一番タチが悪い。


 その日からだった。


 “みちのくのエース”を巡る、

 誰も公式には認めていない冷戦が始まったのは。


 玲香は、あからさまに張り切る。


「東北イベントでは私が前に出ますから!」

「MCも、私が回します!」

「仙台の発信力、見せますよ!」


 一方の柚希は――


「前、出ろって言われたら出ますけど……」

「裏でもええなら、それで」

「紙芝居?あぁ、持ってきてます」


 結果どうなるか。


 イベント後、

 子どもたちは柚希の紙芝居の続きをせがみ、

 大人たちは柚希に静かに話しかけ、

 玲香は控室でSNSを更新していた。


「……なんでやねん」


 玲香は、控室で頭を抱える。


「私のほうが都会的で、

 洗練されてて、

 ちゃんと“ヒロイン”してるのに……」


 一方、柚希はというと。


「玲香さん、今日はよう喋ってはりましたね」


「嫌味ですか?」


「いえ。

 喋らんと回らん場面も、確かにありますから」


 心底そう思っている顔だった。


 玲香は、その瞬間に悟った。


(……この人、

 勝ち負けの土俵にすら立ってない)


 事態を一歩引いたところから見ていた遥室長は、

 内心でため息をついていた。


(東北展開、

 思ったより繊細だねぇ……)


 派手にぶつかるわけでもない。

 露骨に仲が悪いわけでもない。


 だが、

噛み合わない歯車ほど、音もなく削れていく。


 これは調整が要る。

 時間も、距離も。


「しばらくは、

 東北は慎重にいきましょう」


 遥室長のその判断に、

 誰も反対しなかった。


 数日後。


 柚希は盛岡へ戻る準備をしながら、

 ぽつりと漏らした。


「……私、

 エースとか、正直どうでもいいんです」


「でしょうね」


 隣にいた詩織が、優しく笑う。


「でも、

 “そう言える人”がいるのも、

 チームには必要なんですよ」


 柚希は少しだけ照れた。


「そういうもんですか」


 一方その頃、玲香は。


「……次は、

 “仙台らしさ”をもっと前に出します」


 誰にともなく、そう宣言していた。


 みちのくのエースは、

 まだ決まらない。


 いや、

決めなくてもいいのかもしれない。


 南部せんべいのように、

 静かに残る存在と。


 杜の都を背負うつもりで、

 前に出続ける存在。


 東北は今日も、

 寒くて、広くて、

 ちょっと面倒くさい。


 だがそれが――

 みちのくらしさなのだ。

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