「皆さまのヒロイン」になれました
大型ショッピングモール「パーク・アークス」。
休日の朝だというのに、開店前から異様な熱気が漂っていた。
「やば……徹夜組まで出てるって、マジなん……?」
控室のモニターを覗き込んだ美月が、目をまんまるにする。
その隣で、いつも冷静な綾乃も「こんなに並んでくださるなんて……ありがたいことどす」と驚きを隠せない。
この日は、戦隊ヒロイン・レッドフレイム(美月)とブルー・インテリジェンス(綾乃)によるトークショー&サイン会イベント。
今では親子連れ、学生、若者、さらには地方からの遠征組まで列をなす、ヒロインイベントの名物となっている。
だが──
「……最初のサイン会、覚えとる?」
美月がつぶやくと、綾乃がふっと笑った。
「並んでいたのは、3人どしたな。うちと美月さんで5人分の机、ちんまり使って……」
「なぁ……風、スースーしとってん……広すぎて逆に気まずいっちゅーねん」
ふたりの笑いに、控室のソファで新聞を読んでいた一人の女性が顔を上げた。
「最初のチラシ、うちが印刷して持ってっただよ。50枚だけな。カラーにしたかったけど、経費の許可が下りなかったで」
それは、ふたりの活動を陰で支える政府広報官・芹沢遥だった。
落ち着いたネイビースーツ、緩やかにまとめた黒髪、180cm近い長身。
一見クールビューティな彼女が、ゆったりと笑って言葉を続ける。
「でも……コツコツやってきただよね、あんたたち。交通安全、青パト同乗、街頭啓発、ちっちゃい商店街の盆踊りまで」
「あと、犬のふん放置撲滅キャンペーンとかもありましたね」
「せやった!フンを許すな!って書いたヒーローポスター、今でも残っとるかも」
「ふたりとも、真剣だったで。うちは、そこが一番、嬉しかっただよ」
遥は柔らかく微笑みながら、二人の制服の襟を軽く整えた。
「今日は“皆さまのヒロイン”として、堂々と行ってきな。
静岡から富士山越えてでも応援しに来た甲斐があるら」
「それでは皆さん、お待たせしました!
“皆さまの戦隊ヒロイン”が、ついに登場です!」
MCの呼びかけと同時に、会場の照明が落ち、大歓声が湧き起こる。
赤と藍の制服に身を包んだふたりがステージに現れると、
子どもたちの「わぁー!!」「ヒロインだー!」という歓声とともに、
大人たちからも大きな拍手が湧き上がった。
ふたりはマイクを取る。
「みんな、うちらのこと、見つけてくれてありがとなー!」(美月)
「今日だけやなく、これからもよろしくお願いしますえ」(綾乃)
その光景を、後方からそっと見守る芹沢遥。
ふっと目を細めると、ひとり静岡弁でつぶやいた。
「……あんたたち、ほんとに、立派になったらぁ」




