盛岡的にアウトです――赤嶺美月、オカルトを便利ツール化する
新橋ヒロ室のミーティングスペースは、今日も平和だった。
正確に言うと、平和そうに見えて、赤嶺美月が余計なことを思いつく直前だった。
「なあ柚希」
突然呼ばれた中野柚希は、書類から顔を上げる。
民俗学専攻、盛岡在住、南部弁がまだ少し残る穏やかな東北美人。
その静かな存在感が、最近ヒロ室で妙に効力を持ち始めていた。
「はい、なんです?」
「その盛岡のアレや。
この配置、盛岡的に大丈夫なん?」
全員が一瞬、固まった。
「……どういう意味でしょうか」
「いややから、ほら。
東北の神さんとか、土地のアレとか、そういうやつ」
美月の言い方は完全に交渉材料としてのオカルトだった。
柚希は一拍置いて、首を横に振る。
「私はそんなこと言ってません」
「でも前、雨の日はセンター立たん方がええ言うてたやん」
「言ってません」
「ほら見い!
否定が弱い=当たりや!」
彩香が即座にツッコむ。
「それ論理破綻しとる!」
オカルト、便利ワード化する
それからだった。
「それ盛岡では事故る配置らしいで」
「今日“風の神”機嫌悪い日ちゃう?」
「今それ言うたら雷落ちる思うわ」
美月の口から、出所不明の盛岡理論が次々飛び出す。
柚希は毎回、静かに否定する。
「言ってません」
「知りません」
「盛岡関係ありません」
だが美月の処理速度が速すぎた。
「はいはい、否定入ったけど一応考慮な~」
綾乃が額に手を当てる。
「赤嶺さん、それは文化への冒涜どす」
「ちゃうちゃう。
文化を最大限活用してるだけや」
「それ詐欺師の理屈です」
責任転嫁オカルト、発動
イベント当日。
音響が一瞬だけ乱れた。
美月が即座に言う。
「ほら見い!
白が中央おるから言うたやろ!」
スタッフ「……白?」
「白はな、東北では“呼ぶ色”や」
「何を」
「知らんけど」
誰も納得していないのに、
なぜか次の進行はスムーズだった。
これが最悪だった。
「……当たってる気がする」
「いや、たまたまでは」
「でもさっきの照明も……」
美月はニヤリと笑う。
「な?
オカルトは“当たった後が本番”やねん」
勝手に作られる「盛岡運用ルール」
気づけばミーティングボードに紙が貼られていた。
・赤×白×藍はNG
・雨の日はセンター立たない
・柚希の隣は安全地帯
・「盛岡的にアウト」は最終判断
彩香「誰が許可した!」
美月「盛岡や」
柚希「……許可してません」
綾乃が静かに言う。
「美月はん、
それ信仰ではなく業務妨害どす」
「信仰ちゃう。
危機管理や」
逆襲、始まる
数日後。
美月がどうしても避けたい役回りが回ってきた。
「それ盛岡的に――」
柚希が、初めて遮った。
「今回は盛岡的に、
逃げた人がセンターになります」
「……え?」
「逃げると“目立つ運”が倍になります」
室内が静まり返る。
全員が、美月を見る。
「聞いてへん!」
柚希は南部弁が少しだけ混じる。
「悪用は、罰当たるんです」
彩香「ほら来た」
綾乃「因果応報どす」
オチ
結局、美月はセンターに立った。
逃げられなかったし、
逃げなかった。
結果――大成功。
会場は沸き、
「今日の美月、キレてた」と評される。
終演後、控室。
美月は床に座り込んで言った。
「……盛岡、怖いわ」
柚希はお茶を差し出す。
「最初から、そうなる言うたはずです」
綾乃が静かに締める。
「便利に使おうとした時点で、
もう信じてはったんと違います?」
美月は答えなかった。
ただ一言。
「次はちゃんと聞くわ……盛岡に」
柚希「聞かなくていいです」




