その配置、盛岡では全滅フラグです ――戦隊ヒロイン民俗学オカルト回――
新橋ヒロ室のミーティングスペースは、その日も平和だった。
いや、正確に言うならいつも通りうるさかった。
「だからセンターはウチや言うてるやろ!」
赤嶺美月がテーブルを叩く。
「ほな、左右どないします? 彩香は端でええんと違います?」
西園寺綾乃が涼しい顔で返す。
「端ってなんやねん端って! 私、南京玉すだれ枠ちゃうで!?」
西川彩香が噛みつく。
テーマは夏休み向けの地方イベント。
ステージ構成、立ち位置、衣装カラー、出番順。
ヒロインたちは経験と勢いだけで決めていく、いつもの流れだ。
「はいはい、ここセンター美月、左右に彩香と綾乃」
「色は赤・白・藍でええやろ」
「トリはグレースフォースで締め!」
その時だった。
控えめに、しかし妙に通る声が会議室に落ちた。
「……その並び、盛岡だば“三人とも風邪ひぐ”配置です」
全員が一斉に振り向く。
中野柚希が、メモ帳を胸に抱えたまま立っていた。
色白で、ほんわかした東北美人。
表情は穏やかだが、目だけが妙に真剣だ。
「え? 今なんて?」
美月が聞き返す。
柚希は少し首をかしげ、南部弁のまま続けた。
「赤が真ん中で、白が左、藍が右。
それ、盛岡の夏祭りだば“喪の並び”です」
「……は?」
彩香が固まる。
「あと、出番順が“死に順”です」
「ちょ、ちょっと待ちなはれ!」
綾乃が珍しく声を荒げる。
「論理的に説明してもらわんと困りますえ?」
柚希は、メモ帳を開いた。
「えっとですね。
真ん中が“火”、左が“紙”、右が“水”。
これが一直線に並ぶと、
火が紙燃やして、水で流されて、全部終わるんです」
「なにその雑な世界観!?」
美月がツッコむ。
だが柚希は淡々と続ける。
「あと、三人とも同い年で厄年近いですし」
「トリの立ち位置が“神輿の下”です」
「この並び、盛岡だと“雷落ちる”言われます」
会議室が静まり返る。
「……なあ綾乃」
彩香が小声で言う。
「前に機材トラブった夏祭り、こんな並びやなかった?」
綾乃が資料をめくる。
顔色が変わった。
「……一致してますえ」
「え、ちょ、やめて!?」
美月が慌てる。
「オカルトやんそれ! 科学的根拠どこ!?」
柚希は困ったように笑った。
「根拠は……失敗の積み重ねです」
「昔の人は理由わからん失敗を全部“やめとけ”にまとめただけで」
「それ一番怖いやつ!!」
美月が叫ぶ。
半信半疑のまま、配置は変更された。
色を一色ずらす
出番順を一人入れ替える
センターを“守り役”に
当日。
機材トラブルなし。
進行遅れなし。
なぜか観客の拍手が長い。
最後、スタッフが拍手を止めるタイミングを失う。
控室。
「……なにこれ」
美月が呆然とする。
「偶然やろ……?」
彩香が言うが、声が弱い。
そこへスタッフが走り込む。
「昨日まで雨予報だったのに、晴れました!」
全員が柚希を見る。
柚希は首を振った。
「……たまたまです」
「盛岡だと、よくある話で」
その日以降、
ヒロ室には正式資料とは別に
《中野柚希・非公式注意書き》が貼られた。
・この色合わせは避ける
・この並びは雨
・この人がトリだと機材壊れる(※個人差あり)
「なんで私だけ実名やねん!」
美月が抗議する。
柚希は申し訳なさそうに言った。
「……美月さん、盛岡だと“嵐呼ぶ人”です」
「もう岩手行かれへんわ!!」
こうして柚希は、
正式な役職を持たないまま、
“触ると危ないが、いないと不安な民俗学オカルト担当”
として、
今日も静かにヒロ室の平和(?)を守っているのだった。
――なお、次の会議では
誰も柚希の隣の席を避けなかったという。
理由?
避けた方が、なにか起きそうだからである。




