ぶぶ漬け、南部弁で煮込んだら ― はんなり参謀、思考停止
新橋ヒロ室のミーティングスペースは、その日、妙に静がだった。
赤嶺美月と西川彩香がまだ火種を見つけとらん、嵐の前の貴重な間である。
その中心で、湯呑みを両手で包むように持ち、
ぽつんと座っていたのが――盛岡出身の中野柚希だった。
向かいにいるのは、西日本ヒロイン随一の参謀、西園寺綾乃。
背筋はまっすぐ、表情ははんなり、いつも通り余裕たっぷりだ。
「今日は、えらい静かどすなぁ」
綾乃がそう言った瞬間、
柚希はノートに書いとった文字を、すっと止めた。
「……今の言い方だば、“これから荒れる”って前振りだと思うんですが」
「……え?」
綾乃が、きょとんと瞬きする。
柚希は首をかしげながら、南部弁のまま続けた。
「盛岡さ、似た言い方あるんです。
“今日は静がだごだなぁ”って言う時は、
だいたい誰かがやらかす前触れなんで」
美月が横で吹き出す。
「もう的確すぎるやろ、それ!」
綾乃はまだ余裕を崩さん。
「まあまあ、それは地方あるあるどすえ。
ほな……これはどないどす?」
そう言って、満を持して繰り出される。
「ぶぶ漬けでもどないどす?」
京都皮肉界の最終兵器。
しかし柚希は、眉一つ動かさん。
「はい。それ、“早よ帰れ”って意味ですよね」
一瞬の沈黙。
「ただし、
・相手を悪者にしねぇ
・言われた方が察して動く
・あと腐れ残らねぇ
……っていう、すごく合理的な言い回しだと思います」
綾乃の口角が、ほんの少し固まった。
「つまり――」
柚希は、ゆっくり言葉を選ぶ。
「南部で言うなら、
“外、だいぶ暗ぐなったなぁ”と同じです」
――ズドン。
見えねぇ何かが、綾乃の思考を直撃した。
彩香が腕を組んで唸る。
「うわ……京都と岩手、同じ武器使っとる……」
詩織が小さく拍手する。
「なんだか……文化人類学みたいですね……」
陽菜がぽつり。
「綾乃さん、初めて黙った……」
真央は感心した顔で言う。
「南部弁、静かに刺してくるな……」
みのりは目を丸くする。
「千葉にはない戦闘スタイル……」
ひかりはノートを開きながら。
「紙芝居にするとしたら……最終回レベル……」
その中心で、
綾乃は静かに息を吐いた。
「……参りましたわ」
一同、どよめく。
「皮肉は、分がらへんから成立する。
ここまで分解されたら……もう技やあらしまへん」
柚希は少し慌てて手を振る。
「いえ、勝ち負けとかじゃねぇです。
ただ、興味あって……」
「それが一番怖いんどすえ」
綾乃は苦笑しながら言った。
「中野さん、
あなた静かやけど――
考え方が、武器どす」
柚希は少し照れたように、湯呑みを持ち上げる。
「……盛岡さ、普通だと思ってました」
美月と彩香が同時に叫ぶ。
「「それが普通なわけあるかい!」」
新橋ヒロ室に、今日も笑い声が響く。
ただ一つ――
はんなり参謀が南部弁に論理で沈められたという、
語り草だけを残して。




