舞台は短く、会報は分厚く ― ベイサイドトリニティ再起動
復帰――その言葉は甘美だが、現実はだいたい地味だ。
ベイサイドトリニティの三人、澪・沙羅・理世は、平塚美波を中心に大宮麗奈も賛同する“慰問キャラバン”に同行することになった。派手な凱旋ではない。各地を回り、笑顔を届け、裏も表もやる。地味だが、これが正しい再始動だった。
横須賀市の小児終末ケアセンター。
この日の三人はまず会場設営。ヒロ室スタッフの高島里奈と、アルバイト学生の内田あかねと一緒に、机を運び、配線を整え、風船を膨らませる。
沙羅が汗をぬぐいながらぼやく。「……ステージより息切れする」
理世は椅子の列を見て腕組み。「この配置、観客目線だと見やすい……かも」
澪はケーブルを巻きながら、静かに頷いた。「うん、こういうの、嫌いじゃない」
そして今回は、美波の計らいで短時間出演。
MCはもちろん美波。開口一番、軽く毒を飛ばす。
「えー、本日のゲストは“復帰してすぐ働かされる三人組”です。拍手!」
沙羅と理世は苦笑い。だが舞台に立つと、空気が変わる。
「……やっぱり、舞台の上はいい」
「息が合うと、ちゃんと楽しい」
ふたりは実感した。
一方、澪は少し違った。
「私、裏の方が落ち着くかも」
自分の声に、自分で驚いた。
舞台後のミニゲーム。入所者との触れあいで、思わぬ主役が現れる。
高島里奈がハリキリすぎて、全力リアクション。
「はいはい!次は私が鬼でーす!」
会場は爆笑。
澪がぽつり。「……私より、演者向いてるんじゃないの」
沙羅が即ツッコミ。「言うな。本人がその気になる」
慰問が終わると、美波のありがたいダメ出しタイム。
「短時間でも、間の取り方は良かった。ただ――」
沙羅には「主役感を出しすぎないこと」、理世には「客の体調を見ること」、澪には「裏方に逃げすぎないこと」。
三人は素直に頷いた。今日は“怒られた”より“教わった”が勝った。
数日後。
久々に発行された澪後援会会報が届く。
表紙は大見出し。
「世界へ羽ばたくベイサイドトリニティ再始動!」
提灯記事はほぼ大本営発表。
「横須賀市内・小児終末ケアセンターで笑顔を振りまく澪!」
――ここまでは、まだ分かる。
しかし、ページをめくると様子が変わる。
「29日ニクの日!骨付きカルビ半額」
「18時までハッピーアワー 生ビール100円」
「パチンコ新台入替」
「キムチ専門店オープン」
生田緑地のイベント、市政情報まで網羅。
澪は唖然。「……私の記事、どこ?」
沙羅が指差す。「この三行」
理世が真顔。「でも実用性は高い」
結果――
澪後援会、会員数1万人突破。
本人の露出は控えめ、活動は地味。なのに、会報は地域密着で大好評。
澪は苦笑する。「私の低迷と、会報の好調が反比例してる……」
美波が肩を叩く。「いいじゃない。地に足ついてる証拠よ」
こうしてベイサイドトリニティは、派手ではないが確実な一歩を踏み出した。
舞台は短く、裏は長く、会報は分厚い。
再始動は、いつだってそんなものだ。




