スポットライトの裏側は、だいたい地味で汗くさい
ベイサイドトリニティ――澪、沙羅、理世。
その三人が久々に同じ現場へ向かうバスの中は、妙に静かだった。
「今日の慰問、どんなステージなんだろうね」
澪が何気なく言う。
「……ステージ?」
沙羅が首をかしげる。
「聞いてない?
今日は出演しないって」
その一言で、車内の空気が一段階下がった。
「は?」
「え、どういう意味?」
理世が声を荒げる。
同行するのは、湘南の毒舌クイーン・平塚美波。
彼女が長年ライフワークとして続けている、横須賀市内の老人ホーム慰問活動だった。
ただし――
ベイサイドトリニティの三人は、演者ではない。
まずは裏方。
照明、設営、会場整理。
拍手される側ではなく、拍手が起きる場を作る側。
会場に着くなり、ヒロ室スタッフの高島里奈が指示を飛ばす。
「澪ちゃん、あかねちゃんと一緒にステージ裏お願い!」
「沙羅ちゃんと理世ちゃんは椅子並べ!」
アルバイト学生の内田あかねが、ヘルメット片手に元気よく言う。
「今日は時間タイトなんで、サクサク行きましょー!」
澪は楽しそうだった。
「裏方って、思ったより動きあるね」
「段取り考えるの楽しいかも」
一方。
「……なんで私が椅子並べ?」
沙羅は小声で文句を言う。
「私はフロント向きでしょ?」
理世も不満顔だ。
並べても並べても終わらない椅子。
背中にじんわり汗がにじむ。
「これ、誰も見てないよね?」
「拍手もないし」
そんな二人を横目に、澪はケーブルを巻きながら鼻歌まで歌っている。
「澪、楽しそうすぎない?」
「うん。なんか…“現場”って感じで」
そして、いよいよ慰問が始まった。
舞台袖。
三人は裏方として立ち、そこからステージを見つめる。
美波が一歩前に出るだけで、空気が変わる。
派手な動きはない。
でも、一言一言が、会場の年配者の心を掴んでいく。
続いて麗奈。
少し抜けたところのある笑顔が、場を一気に和ませる。
沙羅は思わず呟いた。
「……盛り上げ方、計算してる」
理世も黙って頷く。
煽りすぎない。
でも沈ませない。
ちゃんと“相手の年齢と体調”を見ている。
「これ…
表でやるより、裏で見た方が勉強になるね」
舞台が終わると、拍手が会場を包んだ。
三人は反射的に頭を下げそうになって、慌てて止める。
自分たちは、裏方。
拍手を浴びる側じゃない。
撤収作業が終わったころ、
美波が三人に近づいてきた。
「どう?
裏、楽しかった?」
澪は即答した。
「はい。すごく」
沙羅と理世は一瞬黙り、
それから少しだけ素直に言った。
「……思ったより、大変でした」
「でも、ちょっと分かりました」
美波はニヤリと笑う。
「でしょ?」
「裏方がどれだけ踏ん張ってるか分からない人は、
ステージに立つ資格ないのよ」
三人は背筋を伸ばした。
「次は、どうなるんですか?」
澪が聞く。
美波は肩をすくめる。
「次?
それは――
今日の働き次第」
その言葉に、沙羅と理世は顔を見合わせた。
プライドだけは富士山級だった二人が、
少しだけ、山を下り始めた瞬間だった。
――スポットライトは、まだ遠い。
でも、地味で汗くさい場所から、
ヒロインはもう一度作り直される。




