赤嶺家の人々
東大阪の閑静な住宅街。その一角に佇む赤い屋根の二階建てが、赤嶺美月の実家である。
外から見ればごく普通の家庭に見えるが、玄関の戸を開けた瞬間、飛び込んでくるのは関西特有の「ツッコミと愛」に満ちた、まるで昭和のホームドラマのような賑やかさだ。
「みーちゃん、靴、脱ぎっぱなしやで。ヒロインやったら戦場だけやのうて玄関もビシッとせなあかん!」
と笑いながら注意するのは、母・春菜。
年齢は40代後半だが、姿勢も肌も服装も完璧。近所のスーパーでは毎回「女優さんかと思いました!」と言われ、本人は照れ笑いしながらも「まあ昔はちょっとヤンチャしてたからな〜」と意味深に笑う。
それもそのはず。春菜は今なお、かつてのギャル時代を彷彿とさせるキラリとした瞳を残しており、その全身からは“ただ者ではない感”がにじみ出ている。
そしてその隣で新聞を読みながら苦笑しているのが、父・真人。
大手企業の部長職というしっかり者……のはずが、時折「新作ダジャレ思いついたんやけどな」と言い出し、美月から容赦なく「それ、昭和やで」とツッコミを食らっている。
娘には甘々で、どんな奇抜なヒロイン衣装でも「みーちゃん、世界一かわいいで」と真顔で言える男。それが彼である。
そんな両親を支えるのが、近所に住む祖父母だ。
祖父・清一は、鉄と油にまみれた町工場の現役社長。頑固一徹、無口かと思いきや、「任侠映画は人生の教科書」と断言する一面を持ち、孫の美月に“義理人情”のイロハを叩き込んだ張本人である。
ある日突然、5歳の美月がぬいぐるみ相手に「ワレ、筋通さんかったらどうなるかわかっとるんかい」と啖呵を切ったのも、彼の影響だと噂されている。
一方、祖母・花はその対極。おっとりとした口調で家族を見守りつつ、実は地元の河内音頭保存会の古参メンバーという一面も持つ。夏祭りでは着物姿で軽やかに踊り、孫たちからは“リズムの魔女”とひそかに呼ばれている。
――そして、もう一人。
赤嶺家とは血縁関係ではないが、娘のように馴染んでいる少女がいる。
西園寺綾乃。名家の出身で、戦隊ヒロインとしては美月の相棒であり、対照的な存在。
冷静沈着、上品で知性派。話し方も、笑い方すらも“はんなり”している。
だが、美月のこととなると時折「しゃあない子やなぁ」と微笑みながら付き添っている姿は、もはや“戦隊界の姉妹漫才”と評されるほどの名コンビぶりを発揮している。
赤嶺家は、個性と愛がギュッと詰まった小さな宇宙だ。
そして、そこに育った美月の「ヒロイン魂」は、今まさに全国を席巻している――。