東京?知らん。博多が正義 ― 動かないヒロイン・浜崎莉央
浜崎莉央は、生まれも育ちも福岡市。
人生の半径はだいたい地下鉄空港線と七隈線で説明できる女だった。
「博多はね、住むとこやけん。通過点にしたらいかん」
これが彼女の持論である。
コテコテの博多弁話者で、語尾には自然に「〜っちゃん」「〜たい」が付く。
しかし不思議なことに、うるさくない。
声を張らなくても、場が静かになるタイプの博多女だ。
福岡は美人が多い。
それは事実で、もはや観光資源に近い。
その中にあっても浜崎莉央は、**「派手じゃないのに、なぜか目が行く」**タイプだった。
整いすぎない顔立ち。
品のあるメイク。
何より、姿勢と服の“収まり”が異様にいい。
「服はね、主張せんでよか。
人を前に出すもんやけん」
この一言で、何人ものヒロインが黙った。
実は莉央、過去に何度も東京から声を掛けられている。
スタイリスト事務所、アパレル企業、イベント会社。
条件はどれも悪くなかった。
だが返事は、すべて同じ。
「すみません、福岡離れる気はなかです」
理由を聞かれると、少し考えてからこう言う。
「東京で働く自分、全然オシャレに見えんのです」
意味が分からないようで、妙に納得させられる答えだった。
そんな莉央が、セレクトショップ勤務のまま
非常勤ヒロインとして戦隊ヒロインプロジェクトに参加することになる。
月に何度か、上京。
新橋のヒロ室で衣装会議。
会議が始まって五分で、必ず誰かがこう言う。
「……それ、言われるともうその服着れない」
莉央は笑う。
「大丈夫。着るなとは言っとらん。
“ここでは着らん”って言っとるだけ」
地味に一番怖いやつである。
イベントの日には、たまにステージにも立つ。
ヒロインではなく、**“服の人”**として。
「今日はね、色数を減らす話します。
戦隊は人数多いけん、色が喧嘩しやすいっちゃん」
客席はなぜか納得顔。
ヒロインたちはメモを取り始める。
楽屋では、さらに真価を発揮する。
「そのアイライン、ちょっと右だけ強か」
「前髪、今の湿気なら五分後に死ぬ」
「それ靴ずれするやろ、替え持っとる?」
完全に博多のお姉ちゃん兼スタイリスト兼母である。
相談は止まらない。
オフコーデ、私服、デート服、証明写真用メイク。
「それは似合う」
「それはやめとこ」
「それは……勇気いるね」
判断が早く、容赦がない。
だが不思議と、誰も傷つかない。
なぜなら最後に必ず、こう言うからだ。
「でも、あんたの良さは消えとらん」
ややお節介。
本人も自覚している。
「放っとけんのよ。
素材が良すぎる子たちばっかやけん」
広島ののどか、千葉のみのりと並ぶ
地元愛モンスターでもある。
「博多はね、帰る場所やなくて“拠点”たい」
東京で会議が終わると、即福岡へ戻る。
新幹線の時間は一分も迷わない。
「博多の空気吸わんと、センス鈍る」
そう言って去っていく背中を見て、
ヒロインたちは思う。
——この人、戦わないのに強い。
叫ばない。
前に出ない。
でも、全員を一段上に引き上げる。
浜崎莉央。
博多在住、動かないヒロイン。
戦隊ヒロインプロジェクトにおいて、
最も静かで、最も頼れる戦力である。




