経理の妖怪を倒せ!――トリオ・ザ・大阪、現場に降臨
その日、都内某所――下町情緒と再開発が奇妙に混ざり合う墨田区の多目的ホールは、朝から妙に賑やかだった。
楽屋の一角では、未就学児向け派生ユニット
「ぽかぽかトリオ」――麻衣、萌音、詩織が、床に座って準備をしている。
「はい、これは剣ね~」
萌音が器用にバルーンをひねると、
色とりどりの剣が完成した。
「わぁ……!」
それを受け取ったのは、黒崎茉莉花の息子・大翔。
目を輝かせて剣を振り回している。
「ほらほら、走ったらあかんで~」
麻衣が幼稚園の先生モードで声をかけ、
詩織はにこにこしながらその様子を眺めている。
――そこへ。
「大翔~!
その剣でな、
経理の妖怪けちのんを倒してきたらええねん!」
勢いだけで人生を乗り切ってきた女、赤嶺美月の声が響いた。
「はぁ!?
ちょ、ちょっと美月ちゃん!!」
経理の妖怪こと、谷口佳乃――通称けちのんが振り向いた瞬間、
「うおおおおお!!」
大翔が全力で突撃。
「ぐあああああ!!
や、やられた~~!!
経費が……経費が……!!」
床に崩れ落ちるけちのん。
完全にノリノリである。
「けちのん、演技うま過ぎやろ」
横で冷静に見ていた坂井まどかが、ぽつり。
「いやぁ、
この人ホンマ、
経理じゃなかったら
新喜劇行ってたで」
美月が満足そうに頷く。
楽屋はすでに本番前とは思えないほどの温度だった。
本日のイベントは二部構成。
前半が未就学児向けの
「ぽかぽかトリオ」。
後半が問題作――
**「トリオ・ザ・大阪」**のステージである。
そして、この無茶な組み合わせが成立している理由。
それが、黒崎茉莉花だった。
茉莉花が経理業務を引き受けてから、
けちのんの業務負荷は激減。
「今日は現場行ってもええんかな……?」
そんな夢のような一言を、
けちのんが口にする日が来るとは誰も思っていなかった。
そして現場に出てみたら、
楽しいことが大好きな生粋の堺のおばちゃんの血が騒いだ。
「もうな、
やるからには笑い取らな損やろ」
こうして、
いつの間にか美月とまどかに巻き込まれ、
「トリオ・ザ・大阪」が自然発生したのである。
ステージ本番。
「どーもー!
大阪から来ましたー!!」
美月が一人で三人分の声量を出す。
「いや、ここ東京や」
即座にけちのんが知的にツッコむ。
「……えー、本日はお忙しい中ありがとうございます」
まどかは冷静に場を整える。
三者三様。
美月は勢い任せにボケ続け、
けちのんは理屈と数字で切り返し、
まどかは全てを一段引いた位置で受け流す。
「この中で一番怖いの誰やと思う?」
「そら経理やろ!」
「正解や。
領収書ないと、
この世に存在せえへんからな」
子どもは分からないが、
親が爆笑する。
この空気感。
完全に勝ちである。
一方、前半ステージ。
茉莉花は「ぽかぽかトリオ」と並び、
ゆったりとした進行で子どもたちと向き合っていた。
「今日は来てくれてありがとうね」
声は低く、優しい。
元中洲No.1キャストの包容力は、
子ども相手でも一切ブレない。
泣き出しそうな子を見つければ、
すっと目線を合わせる。
「だいじょうぶよ。
ゆっくりでええけん」
その一言で、空気が和らぐ。
麻衣が小声で言った。
「……茉莉花さん、
ほんま“場”を包みますね」
「場を壊さんのが、
一番むずかしいとよ」
茉莉花は笑った。
イベント終了後。
楽屋は拍手と達成感に包まれていた。
「なぁ、
今日めっちゃ楽しかったな」
けちのんが珍しく素直に言う。
「せやろ。
経理ばっかしてたら、
笑いの神様逃げるねん」
美月が肩を叩く。
「……こういうのも、
戦隊ヒロインなんやな」
まどかが静かに呟いた。
茉莉花は、その様子を少し離れた場所から見ていた。
大翔は萌音の隣で、
また新しいバルーンをもらっている。
ヒロ室の空気が、
確実に変わってきているのを感じた。
ギスギスしていた経理。
疲れ切っていたスタッフ。
張り詰めていた現場。
そこに、
大人の余白が生まれた。
「……ええチームになってきたね」
茉莉花がぽつりと呟く。
それは誰かを倒すためでも、
目立つためでもない。
笑って、守って、回していく。
そんな戦隊ヒロインの姿が、
今日もまた一つ増えたのだった。




