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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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293/473

経理の妖怪を倒せ!――トリオ・ザ・大阪、現場に降臨

その日、都内某所――下町情緒と再開発が奇妙に混ざり合う墨田区の多目的ホールは、朝から妙に賑やかだった。


 楽屋の一角では、未就学児向け派生ユニット

「ぽかぽかトリオ」――麻衣、萌音、詩織が、床に座って準備をしている。


「はい、これは剣ね~」


 萌音が器用にバルーンをひねると、

色とりどりの剣が完成した。


「わぁ……!」


 それを受け取ったのは、黒崎茉莉花の息子・大翔。

目を輝かせて剣を振り回している。


「ほらほら、走ったらあかんで~」


 麻衣が幼稚園の先生モードで声をかけ、

詩織はにこにこしながらその様子を眺めている。


 ――そこへ。


「大翔~!

 その剣でな、

 経理の妖怪けちのんを倒してきたらええねん!」


 勢いだけで人生を乗り切ってきた女、赤嶺美月の声が響いた。


「はぁ!?

 ちょ、ちょっと美月ちゃん!!」


 経理の妖怪こと、谷口佳乃――通称けちのんが振り向いた瞬間、


「うおおおおお!!」


 大翔が全力で突撃。


「ぐあああああ!!

 や、やられた~~!!

 経費が……経費が……!!」


 床に崩れ落ちるけちのん。


 完全にノリノリである。


「けちのん、演技うま過ぎやろ」


 横で冷静に見ていた坂井まどかが、ぽつり。


「いやぁ、

 この人ホンマ、

 経理じゃなかったら

 新喜劇行ってたで」


 美月が満足そうに頷く。


 楽屋はすでに本番前とは思えないほどの温度だった。


 本日のイベントは二部構成。


 前半が未就学児向けの

「ぽかぽかトリオ」。


 後半が問題作――

**「トリオ・ザ・大阪」**のステージである。


 そして、この無茶な組み合わせが成立している理由。


 それが、黒崎茉莉花だった。


 茉莉花が経理業務を引き受けてから、

けちのんの業務負荷は激減。


「今日は現場行ってもええんかな……?」


 そんな夢のような一言を、

けちのんが口にする日が来るとは誰も思っていなかった。


 そして現場に出てみたら、

楽しいことが大好きな生粋の堺のおばちゃんの血が騒いだ。


「もうな、

 やるからには笑い取らな損やろ」


 こうして、

いつの間にか美月とまどかに巻き込まれ、

「トリオ・ザ・大阪」が自然発生したのである。


 ステージ本番。


「どーもー!

 大阪から来ましたー!!」


 美月が一人で三人分の声量を出す。


「いや、ここ東京や」


 即座にけちのんが知的にツッコむ。


「……えー、本日はお忙しい中ありがとうございます」


 まどかは冷静に場を整える。


 三者三様。


 美月は勢い任せにボケ続け、

けちのんは理屈と数字で切り返し、

まどかは全てを一段引いた位置で受け流す。


「この中で一番怖いの誰やと思う?」


「そら経理やろ!」


「正解や。

 領収書ないと、

 この世に存在せえへんからな」


 子どもは分からないが、

親が爆笑する。


 この空気感。

完全に勝ちである。


 一方、前半ステージ。


 茉莉花は「ぽかぽかトリオ」と並び、

ゆったりとした進行で子どもたちと向き合っていた。


「今日は来てくれてありがとうね」


 声は低く、優しい。


 元中洲No.1キャストの包容力は、

子ども相手でも一切ブレない。


 泣き出しそうな子を見つければ、

すっと目線を合わせる。


「だいじょうぶよ。

 ゆっくりでええけん」


 その一言で、空気が和らぐ。


 麻衣が小声で言った。


「……茉莉花さん、

 ほんま“場”を包みますね」


「場を壊さんのが、

 一番むずかしいとよ」


 茉莉花は笑った。


 イベント終了後。


 楽屋は拍手と達成感に包まれていた。


「なぁ、

 今日めっちゃ楽しかったな」


 けちのんが珍しく素直に言う。


「せやろ。

 経理ばっかしてたら、

 笑いの神様逃げるねん」


 美月が肩を叩く。


「……こういうのも、

 戦隊ヒロインなんやな」


 まどかが静かに呟いた。


 茉莉花は、その様子を少し離れた場所から見ていた。


 大翔は萌音の隣で、

また新しいバルーンをもらっている。


 ヒロ室の空気が、

確実に変わってきているのを感じた。


 ギスギスしていた経理。

疲れ切っていたスタッフ。

張り詰めていた現場。


 そこに、

大人の余白が生まれた。


「……ええチームになってきたね」


 茉莉花がぽつりと呟く。


 それは誰かを倒すためでも、

目立つためでもない。


 笑って、守って、回していく。


 そんな戦隊ヒロインの姿が、

今日もまた一つ増えたのだった。

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