笑って守れ、あなたの財布 ― ヒロイン流・堅実マネー講座
そのイベントは、開始前から妙な熱気に包まれていた。
場所は都内某所。
主催は“競馬と株に強い、あのラジオ局”。
来場者の年齢層がやたら高く、
なぜか受付に証券会社の紙袋が多い時点で察しはついた。
「……完全にアウェーやね」
控室でそう呟いたのは、黒崎茉莉花。
今日はドレスではなく、落ち着いたネイビーのワンピース。
それでも九州女の肝は据わっている。
「大丈夫です。
ここは“分からせる”場じゃなくて、
“安心させる”場ですから」
眼鏡をくいっと上げた福永理沙が、淡々と答える。
元・大手証券出身、FP資格持ち。
今日の主役は間違いなくこの女だ。
そして開演。
「本日のゲストは――
戦隊ヒロインプロジェクトより、
福永理沙さんと黒崎茉莉花さんです!」
拍手。
だが、どこか様子見の拍手。
壇上に上がった茉莉花は、マイクを取るなり言った。
「今日はね、
“一攫千金”の話はせんよ」
会場がざわつく。
「代わりに、
“一発もやられん方法”の話をするけん」
ここで笑いが起きた。
理沙が続ける。
「まず、2026年の相場見通しですが――
年後半にかけて、
日経平均は55,000円台を目指す可能性があります」
おお、とどよめく会場。
「ただし、
これは“楽観一択”ではありません」
スライドが切り替わる。
「為替。
非鉄。
地政学リスク。
特にチャイナリスクは――
正直、大きいです」
会場が一気に真剣になる。
そこへ茉莉花が割り込む。
「要するに、
“儲かりそう”に見える時ほど、
財布のチャックは固くしとけ、ちゅう話やね」
ドッと笑いが起きる。
「全部突っ込む人、
中洲にもおったよ」
理沙が即座に補足する。
「それ、ほぼ例外なく破滅してました」
爆笑。
理沙は続ける。
「なので、2026年に向けては、
金、国債などの安全資産への
“段階的な移し替え”をおすすめします」
「“全部逃げろ”じゃなくて、
“ちょっとずつ守れ”やね」
「そうです」
テンポの良い掛け合いに、
会場の空気が完全に掴まれた。
質疑応答。
「今から投資を始めるのは遅いですか?」
理沙が答える前に、
茉莉花がマイクを取る。
「人生で一番遅いのは、
“やらんまま後悔すること”やと思うよ」
少しだけ真顔で。
「ただし、
“分からんまま突っ込む”のは、
もっとアカン」
理沙が頷く。
「まずは
“守る力”を身につけてください」
会場は拍手喝采。
セミナー終了後。
「……正直、
戦隊ヒロインがここまで現実的とは思わなかった」
そんな声があちこちから聞こえた。
控室に戻った二人。
「いやぁ、
完全に場違いやと思っとったけど」
茉莉花が肩を回す。
「でも、
“お金の話をちゃんとする場”って、
必要なんですね」
理沙は小さく笑った。
「戦う相手が違うだけで、
やってることは同じです」
「守る、か」
「守る、です」
二人は目を合わせて、頷いた。
――
この日、
戦隊ヒロインはまた一つ、
“新しい戦い方”を示した。
必殺技も変身もない。
だが確かに、
誰かの未来を守る話だった。
財布は、
命より軽いようで、
生活より重い。
その現実を、
笑いながら伝えられるヒロインがいてもいい。
そんな声が、
会場の外まで響いていた。




