修羅場は場数、人生は肝っ玉 ― 黒崎茉莉花という最強の後方支援
戦隊ヒロインの中で、
いちばん場数を踏んでいるのは誰か。
それを聞かれたら、多くの者が迷わずこう答える。
黒崎茉莉花、と。
北九州市小倉北区出身、二十八歳。
九州の血がそのまま顔に出たような、彫りの深い目鼻立ち。
笑えば華やか、黙れば近寄りがたい。
だが本人は言う。
「怖がられるほど大した人生、送っとらんよ」
――それは完全に嘘である。
茉莉花は、戦隊ヒロインきっての苦労人だった。
父親はギャンブル狂いのアル中。
家にいた記憶はほとんどない。
母と二人、いつも何かを我慢する生活だった。
「父親? 写真もないし、顔も知らん」
そう言って笑うが、笑い方が妙に軽い。
高校卒業後、地元企業に就職。
二十一歳で結婚。
二十三歳で男の子――**大翔**を出産。
「この辺で“普通の幸せコース”やと思ったんやけどね」
だが現実は、普通から一気に外れる。
夫のDV。
耐えに耐えて、二十四歳で離婚。
シングルマザー。
子ども一人。
金はない。実家も頼れない。
選択肢は、少なかった。
「夜の街に行ったら堕ちるって言う人おるけど」
茉莉花は言う。
「ウチは、あれで這い上がったんよ」
最初は小倉。
次に、より条件の良い中洲へ。
最初は水割りの作り方も覚束なかったが、
人を見る目、空気を読む力、場を回す技術。
それらは、修羅場の数だけ磨かれた。
気がつけばNo.1。
気がつけば、チーママのような立ち位置。
若いキャストの愚痴を聞き、
客の機嫌を整え、
店全体のバランスを見る。
「戦隊ヒロインより、よっぽどチームプレーやったかもね」
そんな茉莉花に目をつけたのが、隼人補佐官だった。
「この人、場を壊さない」
「いや、壊れそうな場を立て直す」
直々のスカウト。
だが茉莉花は即答しなかった。
年齢。
シングルマザー。
子ども。
何度も断った。
だが最後の一押しは、意外なところから来た。
「ママ、カッコエエやん」
息子・大翔の一言だった。
「……それで決まり」
茉莉花は笑った。
戦隊ヒロイン参加後、
彼女はすぐに“特殊な立ち位置”を確立する。
誰の悪口も言わない。
誰の秘密も暴かない。
だが、全員の本音を知っている。
最初は警戒していた遥室長も、
水商売という経歴を理由に距離を取っていた。
だが、ある日ぽつりと聞いた。
「…あの人、誰にも言わんのですね」
「言わんよ」
茉莉花は即答した。
「言うたら壊れる関係って、あるけん」
その一言で、評価は変わった。
今ではヒロインたちにとって、
茉莉花は相談役であり、避難所であり、現実係だ。
「悩み? あるある」
「失敗? 誰でもする」
「人生? まあ、だいたい思い通りいかん」
それを全部、笑いに変える。
美月は言う。
「この人おったら、どんな修羅場でもなんとかなる気する」
綾乃は静かに頷く。
「底が見えへん人どす」
黒崎茉莉花。
戦わない。
叫ばない。
だが――一番折れない。
そして今日も、
ヒロ室のどこかでこう言う。
「まあまあ。人生、まだ途中やけ」
それが、
最強の後方支援だと気づいた者から、
彼女に頼るようになるのだった。




