ヅラか地毛か粉か──その結論を、チーママが一刀両断 ― 黒崎茉莉花、ヒロ室を制圧する ―
新橋のヒロ室ミーティングスペースは、その日、会議という名の戦場だった。
本来ならば、任務後の簡単な情報共有と次回イベントの段取り確認。
そのはずが、開始三分で話題は完全に逸脱した。
「――だから! あれは絶対に地毛や言うてるやろ!」
机を叩く赤嶺美月。
「年齢の割に生え際が自然すぎるんや! あんなヅラあったら逆に教えてほしいわ!」
「美月はん、それは幻想どす」
涼しい顔で返す西園寺綾乃。
「人間、金と地位を手に入れはると“自然なヅラ”に辿り着かはるもんどす」
「しかも左右の分け目、毎回微妙に違うやろ?」
彩香が資料写真をスマホで拡大する。
「これが“日替わり装着”の証拠や」
「ちょっと待って」
真央が割り込む。
「その二択、危険じゃない?」
一同が見る。
「粉系よ」
真央は真顔だった。
「地毛とヅラの間に存在する、第三勢力」
「……あっ」
ひかりが手を叩く。
「風が吹いた時、妙に“静止”してた気がする」
「確かに」
麗奈も頷く。
「照明当たった時、反射が均一すぎた」
ホワイトボードに書かれる大きな文字。
《粉派、台頭》
「いやいや!」
みのりが慌てて手を振る。
「地毛派の立場も聞いてよ! あの人、汗かいた時も崩れてないよね?」
「それは粉の性能や」
真央が即答。
「私、あの人の後頭部の“丸み”が好きです」
詩織がぽつり。
「地毛じゃないと、あの柔らかさは出ません」
「でも詩織、角度によって“被せ感”あるよ?」
美紀が冷静に突っ込む。
さらにカオスは広がる。
「ヅラ派やけどな、あれは“勝ち組用ヅラ”や」
のどかが腕を組む。
「安モンと一緒にしたらいけん」
「せやせや」
麻衣も同調。
「プロの仕事を感じる」
「そもそもヅラかどうか詮索するのが野暮」
陽菜が真面目に言う。
「人の努力の結晶かもしれないじゃない」
完全に収拾がつかない。
その瞬間、ドアが開いた。
「お疲れさまです」
入ってきた隼人補佐官は、なぜか顔に絆創膏を貼っていた。
「……補佐官、その顔どうしたん?」
美月が即反応。
「え? ああ、これは……久しぶりにアメフトのタックル練習を――」
「嘘」
「嘘どす」
「絶対違う」
三方向同時否定。
「それより」
隼人補佐官は話題を変えるように後ろを振り返った。
「今日は新しい方を紹介します」
そこに立っていたのは、
派手すぎず、しかし一目で“場を知っている”と分かる女性。
「北九州・小倉出身。黒崎茉莉花さんです」
「よろしくお願いします」
柔らかい小倉弁。
空気が、すっと落ち着いた。
「……で?」
茉莉花は状況を一瞬で把握した。
「今の議題、何?」
「I田社長のヅラ疑惑です!」
彩香が即答。
「なるほどねぇ」
茉莉花は笑って、少し考えた。
「人にはね」
静かに言う。
「知られたくないこと、ひとつやふたつ、あるとよ」
一同、沈黙。
「それを“知ってるけど知らんふりする”のも優しさやけ」
茉莉花は続ける。
「どっちにしても、イケオジやろ?」
数秒の静寂。
そして――爆笑。
「完全論破やん!」
「次元が違う!」
「ヅラ論争が人生論になった!」
美月が腹を抱えて言った。
「この人、強いわ」
茉莉花は肩をすくめた。
「ほな次。人生相談、誰から行く?」
その日、ヒロ室は知った。
論争を終わらせるのは、証拠でも正義でもない。
人生を一回転した女の、一言である。
なお、隼人補佐官の絆創膏の真相は、
最後まで誰も信じなかった。




