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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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285/474

世界より遠くて、いちばん近い拍手 ― 玲香、石巻で原点回帰す

北関東スリーアローズと行動を共にするようになってから、佐々木玲香の肩書きは、いつの間にかこう呼ばれるようになっていた。

「整流型MC」。


叫ばない。煽らない。

空気が荒れそうになったら、そっと流れを変える。

時間が押したら、観客ごと丸め込む。


そんな玲香にとって、この日は特別だった。


――地元・宮城県石巻市。


漁港の街であり、巨大な製紙工場の煙突が海風に溶け込む街。

魚市場の威勢のいい声と、工場の低い唸りが同居する、働く街。

都会でも観光地でもないが、生活の重みが地面に染みている場所。


玲香は、正直この街を少し避けてきた。

「地元タレント」扱いされるのが、どこか恥ずかしかったからだ。


イベント会場は港近くの広場。

潮の匂いがする。


「……さて、凱旋公演だな」


るみねぇがニヤニヤしながら言う。


「やめてください、その言い方」


「いいじゃん。今日の主役だよ」


北関東スリーアローズの唯奈と結花も、どこか緊張している。


「玲香の地元って、静かだって聞いたっぺ」

「拍手が小さい分、怖いですの……」


そして、玲香の出番。


名前が呼ばれ、ステージに出た瞬間――

拍手が起きた。


大歓声ではない。

キャーキャーもない。

だが、明らかに“違う拍手”だった。


(……あ)


それは、知っている音だった。

応援というより、「見守る拍手」。


玲香は、少しだけ言葉に詰まり、すぐに整えた。


「お帰りなさい、って言われてる気がしますね」


観客が、静かに笑う。


開始して10分。

敵は、やはり現れた。


――突然の雨。


霧雨のように、しとしとと。


さらに追い打ち。


――副市長の挨拶が、長い。


体感10分。

実際10分。

話は悪くないが、とにかく長い。


唯奈が袖で囁く。


「玲香、これ……詰んだっぺ?」


「大丈夫」


玲香は、時計を見ない。


挨拶が終わった瞬間、すぐにマイクを取る。


「副市長、ありがとうございました。

石巻愛が強すぎて、時間が溢れましたね」


会場、クスッ。


「ここからは、雨にも負けず、

予定にも負けず、

私たちで“続きを作りましょう”」


誰も不満を言わない。

むしろ、空気が和らぐ。


唯奈は暴走しそうなところを、

「30秒で!」の一言でまとめられ、

結花は間を活かして拍手誘導。


「……この二人、扱いやすくなったな」


るみねぇが、腕を組んで頷く。


イベント終盤。

雨は止み、空が少し明るくなる。


最後の挨拶。


「私は、正直この街から

ちょっと目を逸らしてました」


ざわつくが、誰も嫌な顔はしない。


「でも今日、分かりました。

ここで拍手をもらえるのが、

こんなに嬉しいとは思わなかった」


拍手が、さっきより少しだけ大きくなる。


ステージ裏。


「合格点」


るみねぇが、短く言った。


「十分。

アンタ、ちゃんと“地元のMC”になったよ」


玲香は、ふっと笑った。


浜松の河合美音が言っていた言葉が、ふと浮かぶ。


――「わかってくれる人だけでいい」


(……こういうことか)


東京。世界。

それは遠くて眩しい。


でも――

この拍手は、近くて、温かい。


玲香は、心の中でそっと決めた。


まずは、地元をちゃんと歩こう。

世界は、その先でいい。


潮の匂いのする風が吹く。

石巻の空は、思ったより広かった。


――佐々木玲香の物語は、

ここでいったん、静かに一区切り。

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