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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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284/507

時間は押す、機材は黙る、それでも場は流れる ― 玲香、福島で覚醒す

北関東スリーアローズと行動を共にすることになって、佐々木玲香は悟った。

ヒロインの世界で一番怖い敵は、怪人でも悪の組織でもない。


――時間押しと機材トラブルである。


この日、巡業は南東北へ。

舞台は福島県の県都・福島市。阿武隈川が街を貫き、温泉と果物と盆地特有の暑さ寒さで知られる、穏やかで我慢強い土地柄だ。東北新幹線が止まり、駅前は地方都市としては驚くほど整っているが、一歩外れると商店街の人情が色濃い。

つまり――イベントは盛り上がるが、想定外も起きやすい。


会場は駅前広場。

朝から嫌な予感はしていた。


「……あれ? 音、出なくね?」


野性児・唯奈がマイクを叩く。

コン、コン、と虚しい音だけが鳴った。


「まぁまぁ、準備中ってことで~」


昭和アイドル風の結花が、ふわっと笑う。

その瞬間、ステージ袖でスタッフが青ざめた。


「MCさん! マイク1本、死にました!

あと、前の団体が押してて、開始5分遅れます!」


玲香は、深呼吸した。


(来た……最大の敵……)


頭の中で、過去の玲香ならこうだった。

「え?聞いてないんですけど?」

「私の段取りでは――」

そうやって、空気をさらに悪くする未来。


だが今の玲香は違う。

叫ばない。煽らない。責めない。

整流する。


「了解です。

じゃあ、唯奈は声張り用マイク一本に集中。

結花はジェスチャー多めで、言葉少なめ。

私は“つなぎ”で時間を作ります」


スタッフが一瞬ぽかんとした。


「え、いいんですか?」


「いいです。福島の皆さん、待つの得意ですから」


根拠はないが、顔は自信満々だった。


開始5分遅れ。

司会台もない。時計も見えない。

それでも玲香は、静かにマイクを取った。


「皆さん、こんにちは。

今日は予定より少しゆっくり始まります。

その分、慌てず、落ち着いて楽しんでください」


観客が頷く。

誰も文句を言わない。

この時点で、半分勝っていた。


ところが第二波が来る。


――BGMが出ない。


唯奈の登場曲が流れず、本人がキョロキョロする。


「え?ウチ、今、出る流れだっぺ?」


「はい、でも音が……」


玲香は、即座に言った。


「じゃあ唯奈、今日は“生音”で行きましょう」


「生音?」


「自分の声がBGMです」


唯奈の目が輝く。


「それ、得意だっぺ!!」


結果――

福島駅前に、野太い茨城弁が響き渡った。


「福島ぁぁぁ! 元気足りねぇぞぉぉ!!」


音響が復旧する前に、会場の空気は完全に温まっていた。


次は結花。

BGMなし。スポットライトも弱い。


玲香は、そっと補足する。


「結花は今日は“間”を楽しんでください。

言葉が少なくても、伝わります」


「まぁ……素敵ですの……」


結花は、ゆっくり、丁寧に手を振った。

それだけで、前列の子どもたちが笑顔になる。


予定より10分押し。

進行表は、もはや意味を失っている。


だが玲香は、時計を見ない。


「ここからは、皆さんと一緒に作る時間です」


そう言って、観客に質問を投げ、

拍手を誘導し、

無駄な沈黙を“間”に変え、

トラブルを“演出”に変えた。


終了後。

ステージ裏で、るみねぇが腕を組んだまま言った。


「……今日のMVP、アンタだわ」


「え?」


「時間も音も死んでたのに、誰も不満顔しなかった。

それ、MCの仕事だから」


玲香は、その言葉に一瞬だけ言葉を失った。


「……私、今日、初めて

“回した”って言える気がします」


るみねぇはニヤッと笑う。


「やっとスタートラインだな」


福島の夕暮れ。

阿武隈川の向こうで、山が静かに色づいていた。


時間は押した。

機材は黙った。

それでも、場は流れた。


佐々木玲香は、確かに掴みかけていた。

叫ばず、煽らず、導くMCとしての手応えを。

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