表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

283/474

叫ばず、煽らず、導く ― 玲香のヒロイン再定義

新橋のヒロ室。

会議室に置かれたホワイトボードには、やたらと真面目な字でこう書かれていた。


「ヒロインMC研究会(非公式)」


誰が書いたかは明白だ。佐々木玲香である。

しかも下に小さく、気持ち悪いほど丁寧な注釈がある。


※目的:戦隊ヒロインの現場進行を安定化させ、各メンバーの持ち味を最大化すること

※守秘:公式の会議ではないので、公式の責任は負わない


「なにそれ。やってることだけ一流企業の研修じゃん」


るみねぇ――木戸瑠美が、福島訛りまじりに笑った。

玲香は、いつもの作り笑顔を消し、珍しく素直に言った。


「……私、これ以上“かわいいだけ枠”で終わりたくないんです」


るみねぇは椅子にどかっと座り、腕を組む。

その姿勢だけで“詰め”の準備が整っているのが怖い。


「で、何やるの?」


玲香は深呼吸して言った。


「MCです。私の土俵は、そこなんです。

でも、小春さんみたいに江戸っ子テンポで回すのは無理。

美月さんみたいに漫才で爆破するのも無理。

美波さんみたいに毒を混ぜて笑い取るのも無理。

だから――叫ばず、煽らず、導く。そういうMCを作ります」


「…いいじゃん」


るみねぇの返事が、妙にあっさりしていた。

それが逆に効いた。玲香の胸が、少しだけ軽くなる。


ヒロインMC研究会(非公式)開幕


研究会は、まず“他人の強さを認める”ところから始まった。

玲香がノートを開く。ページのタイトルがいちいち意識高い。


「MC分類:支配型・共感型・爆破型・制圧型・放任型」


「まず、小春さんは共感型+支配型のハイブリッドです」

「言い方ァ!」


るみねぇが即ツッコミを入れる。

玲香は真顔で続けた。


「麗奈さんは安定型。進行が一ミリもズレない」

「ズレないのが才能なんだよ、それ」

「美月さんは爆破型。内容より勢い」

「失礼だな!」と誰かの声が廊下から聞こえた気がしたが、聞かなかったことにする。

「真央さんは制圧型。圧で場をまとめる」

「圧でまとめるって何」

「美波さんは毒素調整型」

「毒素て」


研究会は順調に、というか、言葉選びが危険な方向に順調だった。


「で、アンタは?」


るみねぇに聞かれ、玲香は少し間を置いて言った。


「……整流型です。電気の」


「電気て。アンタ理系じゃないのに急に何?」


「場のノイズを整えて、流れを作って、事故らせない。

“誰かが主役になれる環境”を作ります」


るみねぇは一瞬黙ってから、ぽつりと言った。


「いいね。地味だけど強い。

アンタ、ようやく“他人を踏む”んじゃなくて“場を支える”方向に来たじゃん」


玲香は笑ってしまう。

その笑い方に、もう作り物のハリはなかった。


初実地訓練:北関東スリーアローズに同行


「じゃ、現場で試すよ。北関東の巡業に付いてき」


るみねぇの一言で、玲香は一気に現実へ引き戻された。


北関東スリーアローズ――

野生児の唯奈と、不思議ちゃんの結花。

ここは玲香にとって、修羅場として完璧すぎた。


会場は地方のイベント広場。

ステージ裏で、唯奈がすでに声量MAXで叫んでいる。


「おらぁぁ!客ぅ!元気かぁぁぁ!!

眠そうな顔してっと、田んぼに埋めっぞォ!!」


茨城弁が、物騒な方向に豊作だった。

玲香は思わず目を細める。


「……あの、これ、交通安全イベントじゃ」


「うるせぇ!気合が安全だっぺ!」


唯奈の論理は、強度だけで成立していた。


一方、結花は手を胸に添えてふわっと微笑む。


「皆さま、ごきげんよう。

本日は“わたくしのきらめき”をご覧いただければ……

あ、あの、栃木、最高ですの……ふふ……」


栃木弁とお嬢様言葉が交互に出るので、脳が渋滞する。


玲香は、るみねぇの方を見た。

るみねぇは頷いた。


「ほら。これ活かしてみな。叫ぶな。煽るな。導け」


玲香はステージに出る。

観客はすでに唯奈の暴風にやられている。

しかし結花のふわふわが風除けにならず、客席は若干混乱していた。


玲香は、マイクを口元に近づける。


「皆さん、こんにちは。

今日は“元気”と“優雅”が同時に来る、ちょっと珍しい日です」


客席がクスッと笑う。

玲香は続ける。声を張らない。テンションを上げない。速度を上げない。


「まずは唯奈。

皆さん、今の声で目が覚めましたよね。

眠気に勝つ方法――茨城式、ということで」


「おう!茨城は強いっぺ!」


唯奈が勝手に乗る。

玲香は次に結花へ視線を送る。


「そして結花。

優しい言葉は、聞いているだけで気持ちが整います。

今日の会場、騒がしいのに不思議と落ち着くのは、あなたのおかげです」


結花が目を丸くする。


「まぁ……わたくし、そういう役割でしたの……?」


「ええ。あなたは“会場のセラピー担当”です」


客席が笑う。

結花が嬉しそうに小さく頷いた。


唯奈の暴走は、玲香が“役割を与える”ことで芸になった。

結花の不思議さは、玲香が“意味づけ”することで魅力になった。


叫ばなくても、煽らなくても、

場はちゃんと動く。


ステージ袖で、るみねぇが腕組みのまま言った。


「……今の、よかった」


玲香は思わず、ほんの少しだけ笑ってしまう。


「ありがとうございます。

私、今日初めて――自分が“必要な場所”にいる気がします」


るみねぇは照れ隠しみたいに、そっぽを向いた。


「調子乗んなよ。次の現場、もっと地獄だから」


「え?」


「唯奈が途中で客席降りる可能性あるし、結花は急に詩を朗読するから」


「地獄じゃないですか!」


その叫び声だけは、今日いちばん大きかった。


そして玲香は思う。

踏み台にするつもりで来た場所で、踏み外して転げ落ちて、

それでも誰かが手を差し出してくれた。


――叫ばず、煽らず、導く。

その道は地味で、遠回りで、たぶん称賛も少ない。


でも、たしかに“ヒロイン”の道だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ