表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

278/475

びわ湖ヒロインサミット:プライド沈没、在庫は浮く

滋賀県彦根市。琵琶湖の湖畔。

夏の陽射しが水面でギラつく中、やたらデカい仮設ステージが組まれ、のぼりが林立していた。


――「戦隊ヒロインサミット In びわ湖」。


近くでは、あの“人が飛ぶ系のテレビ企画”も昔開催されたことがあるらしい。

つまりここは、夢と根性と勢いが琵琶湖に落ちがちな土地である。


仙台のローカルタレント兼・戦隊ヒロイン、佐々木玲香は、到着早々に湖を見て思った。

(……びわ湖、でか。仙台の海より“でかい顔”してる)


玲香の胸には、密かな青写真があった。

「全国イベントで爪痕→SNSバズ→東京進出→世界へ」

その第一歩として、このサミットで“主役の席”を奪いに来たのだ。


だが、会場の空気は、玲香の思惑より数段ゆるくて、数段強かった。


イベントは、いきなり前座から濃かった。

近江商人ヒロイン・琴葉が、岐阜の伊吹真白を従えて登場する。


「さあさあ皆はん、天秤行商、始めまひょか~!」


真白が天秤棒を担ぎ、左右の籠に商品を入れて揺らす。

まるで江戸時代からタイムスリップしてきた出店だ。


「本日の目玉! 琵琶湖名物、鮎の甘露煮~!」


……この瞬間。


即完売。


観客の熱気が、湖面の風を押し返す勢いで吹き上がった。


玲香は目を丸くする。

(え、前座で完売って、どういうこと……?)


続いて、MCが登場。

江戸っ子ギャルの月島小春と、尾張弁が強めの山田真央のコンビだ。


小春が軽快にマイクを回す。

「はいはい皆さーん! 琵琶湖の水、今日は止めません! たぶん!」


真央が即座に被せる。

「止めたらアカンて! こっちも喉乾いとるで!」


会場が一気に温まった。

温まったどころじゃない。煮えた。


玲香はステージ袖で、笑顔を作りながら計算する。

(このテンポ……私が入っても勝てるやつ?)


そこに、京都の参謀・西園寺綾乃がはんなり登場し、琴葉と並ぶ。

二人で挨拶、のはずが――


綾乃が、滋賀の字面を眺めて、首を傾げた。


「“滋賀”って……字面、ゲジゲジみたいどすなぁ」


会場が「出たー!」という空気になる。


琴葉が間髪入れずに目を細める。

「ほな、琵琶湖の水、止めたろか?」


綾乃が袖を揺らして、すぐさま降伏。

「堪忍しておくれやす~!」


爆笑。

客席は大拍手。湖畔の水鳥も笑った気がした。


玲香は思う。

(私、仙台で“上品で都会的”って言われてたんだけど……この人ら、上品の圧が違う)


さらに畳みかけるように、播州の彩香が出てくる。


「ほな、いきますで~!」


彼女が披露したのは、あの伝統的な芸。

棒と紐と板が、まるで生き物みたいに形を変える――


「南京玉すだれぇ~!」


客席から「うわぁぁ!」と驚愕の声。

見知らぬ子どもが「魔法や!」と叫ぶ。

彦根城の方向からも「それはさすがに魔法ちゃう」と声がした気がする。


玲香は、心の中でそっと手帳を破った。

(……私の“上品なトーク”って、何?)


紀伊ハンターの三人が登場し、三重・和歌山・奈良を元気にアピールする。

続いて浜松の河合美音が、ハーモニカを吹く。


音色が、湖の風に溶ける。

観客の中に、涙ぐむ人が出る。


「……ええ音やなぁ」


誰かが呟いた。

空気が、ふわっと優しくなる。


玲香は焦った。

(泣かせる枠まであるの? このイベント、ジャンル分け完璧すぎない?)


みのりとひかりのグレースフォースは、民話の紙芝居で子どもを一網打尽。

さらに、美月とのどかが“平和”を語る……はずが、いつの間にか漫談になっていた。


「平和はな、願うだけじゃアカンのや!」

「ほいで、なんでそこで河内音頭出てくんねん!」


笑いながら、でも妙に胸に刺さる。

客は笑って頷き、拍手を送る。


玲香はもう理解した。

このサミットは、特技の総合格闘技だ。


そして、ついに玲香の出番。


小春が紹介する。

「仙台から来ました! ローカルでも全国でも狙ってます! 佐々木玲香~!」


玲香は、作り笑顔を完璧に貼り付けて歩み出る。

(ここで決める。東京行きの切符、ここで取る)


マイクを握り、軽妙なトークでつなぐ。

テンポも声も、決して悪くない。


――なのに。


客席から飛んでくる声援は、


「小春ちゃーん!」

「真央さーん!」

「さっきの鮎、もうないのー!?」


玲香は笑顔のまま、心の中で着地した。

(……私、空気。しかも、酸素薄めのやつ)


イベント後のサイン会。


玲香の列は、まばら。

その横で、美音の列は……正直それほど長くない。が、玲香よりはある。


玲香は、そこで完全に刺さった。

(えっ、私、美音より少ないの……?)


さらに追い打ち。


物販コーナー。

玲香のグッズ棚の上に、見たことのないノボリが立っていた。


――「大安売り」

――「在庫一斉処分」


誰がこんな残酷なものを用意したのか。

琵琶湖の水より冷たい。


玲香は、無言でスタッフを見る。

スタッフは目を逸らした。

琵琶湖の魚より素早い回避だった。


その時、隣のコーナーで静かに片付けをしていた美音が、玲香に気づく。


玲香はプライドを噛み殺し、声をかけた。

「……あなた、平気なの? こういう扱い」


美音は遠州弁で、ぽつりと言う。

「わかってくれる人だけ、応援してくれりゃ、ええと思うんだに」


その言葉が、湖面みたいに静かに広がった。


玲香は、その場で固まった。

(わかってくれる人だけでいい……? 私は“全員に認められたい”だけだったのに)


“仙台で一番”の称号が、琵琶湖でぷかぷか浮いて見えた。

それは誇りじゃなく、ただの札みたいに軽かった。


玲香は、笑ってしまった。

悔しいのに、情けないのに、笑いが出た。


「……私、何してんだろ」


琵琶湖の風が、髪を撫でた。

作り笑顔じゃない顔で、玲香は湖を見た。


そこには、広くて、でかくて、逃げ場のない現実があった。

そして、逃げ場がないからこそ――ここから先は、変われる気もした。


玲香は、ポケットの中で拳を握る。

(次は……“空気”じゃなくて、“必要な存在”になってやる)


その決意を、琵琶湖だけが、黙って聞いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ