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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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277/511

仙台では無双、市原では無風 ――井の中の玲香、拍手の数を数える――

千葉県市原市――

千葉県中央部に位置し、工業地帯と里山が共存し

東京近郊ながら自然と暮らしやすさを併せ持つ街。

そんな市原市の大型ショッピングセンターのイベント広場は

朝からやたらと空気が軽い。


ステージ袖では、

月島小春がいつものように台本を軽く折りたたみ、

「じゃ、行こっか〜」と江戸っ子らしい気楽さで前に出る。


「市原のみなさーん!

 戦隊ヒロイン、今日は総出演でお届けしまーす!」


その一声で、客席のテンションが一段上がった。


最初に呼び込まれたのは――

千葉の顔、館山みのり。


「千葉はね、海も山も人も最高なんだよ〜!」


その瞬間、

子どもが手を振り、

年配客が笑顔でうなずき、

若い層も「みのりちゃんだ!」とスマホを構える。


**完全に“地元のスター”**だった。


続いて登場したのは陽菜。

理由もなく元気で、理由もなく好かれる天然枠。


「今日はね、すっごく天気がいいから、

 みんなも気をつけて帰ろうね〜!」


それだけで拍手が起きる。

意味はないが、愛はある。


ステージ袖でそれを見ていた佐々木玲香は、

内心、首をかしげていた。


(……まあ、地元補正よね)


そう。

ここまでは想定内だった。


問題は――その次。


「では次に、

 仙台から来てくれました!

 佐々木玲香ちゃーん!」


玲香は、

完璧な角度の笑顔、

完璧な姿勢、

完璧な歩幅でステージ中央へ。


(ここからよ)


――しかし。


拍手は、

**“礼儀としての拍手”**だった。


ザワつかない。

名前も飛ばない。

誰もスマホを慌てて構えない。


「……こんにちは。佐々木玲香です」


笑顔を一段階、強める。

反応は、変わらない。


客席の一部では、

「今の誰?」

「新しい人?」

という小声が聞こえる。


(……あれ?)


玲香の頭の中で、

小さな警告音が鳴った。


その後、

場を立て直すかのように登場したのが詩織だった。


静かにマイクを握り、

一曲、歌う。


それだけで空気が柔らぎ、

会場はまた“ひとつ”になる。


拍手。

ため息。

子どもがじっと見上げる。


ステージ袖で、

玲香は唇を噛んだ。


(……なんで?)


イベント終了後。

控室で、

玲香は一人、腕を組んでいた。


「……おかしい」


仙台では、

挨拶しただけで空気が変わった。

自己紹介だけで歓声が出た。


なのに今日は、

何も起きなかった。


そこへ、遥室長が入ってくる。


「佐々木さん、

 ちょっと振り返りしよっか」


柔らかい声。

だが、逃げ道はない。


「今日、

 佐々木さんは“誰のため”に立ってた?」


玲香は一瞬、言葉に詰まる。


「……自分を、知ってもらうため、です」


遥室長は、首を振った。


「それは“タレント”の答えだね」


玲香の胸が、少しだけ痛んだ。


「戦隊ヒロインは、

 “自分が主役”じゃない。

 “場を主役にする人”なの」


沈黙。


遥室長は続ける。


「みのりも、陽菜も、詩織も、

 “自分を見せよう”とはしてない。

 “みんなを見る”ことをしてる」


玲香は、

初めて視線を落とした。


――この日、

佐々木玲香はまだ折れていない。


だが、

ヒビは、確実に入った。


井の中は、

思っていたより浅かった。


そして次は――

もっと深く、

もっと派手に、

そのプライドが試される。

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