仙台で一番、世界で一番(※本人談)
佐々木玲香は、最初から高飛車だったわけではない。
むしろ逆だ。
仙台市内のどこにでもある住宅街。
朝は母に急かされ、夜はスマホをいじりながら寝落ちする。
クラスでも目立たず、騒がず、前に出ない。
本人いわく、
「存在感は…中の下?」
どこにでもいる、
やや地味で、やや大人しくて、自己主張が苦手な女の子だった。
それが変わったのは、高校二年の秋。
事件は、
友人の軽いノリから始まった。
「ねえ玲香、
ローカル雑誌の“仙台で一番可愛い女子高生”って企画あるんだけど、
応募しといたから♡」
「……は?」
玲香は本気で驚いた。
というか、半分キレた。
「勝手にやめてよ!
ああいうの、目立つし!」
だが、
その数週間後――
結果発表。
一位:佐々木玲香(仙台市・○○高校)
コンビニの棚に並ぶ雑誌。
自分の写真。
知らない人からの「可愛い!」というコメント。
ここで、
人間の脳は致命的な誤作動を起こす。
(……え?
私、可愛いの?)
いや、
「可愛い子が集まる中でたまたま一位」
という現実的な思考は、
この時点ですでに消滅していた。
代わりに芽生えたのは、
根拠なき確信。
(仙台で一番ってことは、
東北で一番…?
東北で一番なら、日本でも…?
え、世界…?)
ここからが早かった。
服装が変わる。
話し方が変わる。
鏡を見る時間が増える。
そして何より――
自己評価だけが異常にインフレする。
「私って、素材は良いんだよね」
誰に頼まれたわけでもなく、
誰かに否定されたわけでもない。
だが玲香は、
“認められた”という一度の成功体験を、
人生の絶対値だと勘違いしてしまった。
大学進学後、
ローカルタレントとして活動を始める。
情報番組のレポーター。
商店街のイベント司会。
地元ではそこそこ顔が知られる。
すると、
彼女の中で計画が完成する。
(まずは地元で足場を固める)
(次に東京)
(全国区)
(最終的に世界)
その途中経過として、
玲香が目を付けたのが――
戦隊ヒロインプロジェクトだった。
(知名度、ある)
(メディア露出、ある)
(ヒーローもの、海外ウケ良さそう)
――完璧。
(ここを踏み台にすればいい)
こうして誕生したのが、
自己顕示力とプライドの塊・佐々木玲香である。
本人は、
努力しているつもりだ。
常に笑顔。
常に前向き。
常に計算。
だが問題は、
その計算が自分基準でしかないことだった。
戦隊ヒロインの中には、
命を張った経験を持つ者もいれば、
地道に信頼を積み上げてきた者もいる。
だが玲香は、
それを「背景」としてしか見ない。
(私の方が華がある)
(私の方が未来がある)
――そう、信じて疑わない。
それが、
「仙台で一番可愛い女子高生」という
たった一度の称号が生んだ、
最大の副作用だった。
だが。
物語は残酷だ。
“勘違い”は、
必ず修正フェーズを迎える。
そしてその修正は、
たいてい本人が一番恥ずかしい形でやってくる。
佐々木玲香は、
まだそれを知らない。
自分が今、
どれほど見事な助走をつけているのかを。
――転ぶために。




