仙台式・天下取り計画(※本人のみ本気)
佐々木玲香は、新橋のヒロ室に入った瞬間から、
もう“勝負”を始めていた。
(さて……まずは戦力分析、ね)
表情はにこやか。
背筋はまっすぐ。
声はワントーン高め。
だが、心の中では完全に査定モードである。
東日本ヒロインたちは、全体的に穏やかだ。
西日本の連中のような、
河内だの京都だの播州だのが飛び交う修羅場感はない。
――これは、いける。
玲香は確信した。
まず目に入ったのは、
イベントコンパニオン兼務の麗奈。
(……顔、強いわね)
正直、容姿勝負では分が悪い。
だが、数秒観察して玲香は口元をわずかに緩めた。
(あ、抜けてる)
書類を逆さまに持っている。
挨拶のタイミングを一拍外す。
話のオチで必ず一瞬止まる。
(ここだわ)
「天然」「隙がある」「愛され系」
それは裏を返せば、
主導権を握れば操れるということ。
(容姿は負けても、立ち回りで勝てる)
次に視線を移したのは、
いつも周囲に人が集まっている陽菜。
(……人気者ね)
顔立ちも良い。
笑顔も自然。
子ども受けも抜群。
だが。
(幼い)
言葉選びが素直すぎる。
感情が顔に出る。
計算ができない。
(持ち上げて、落とすのは簡単そう)
玲香は心の中で、
すでに“仮想インタビュー炎上シナリオ”を二つほど描いた。
次に、
みのりとひかり――通称グレースフォース。
(……あ、ここは無理)
話していなくても分かる。
視線の置き方、会話の間、言葉の精度。
(知的水準が違う)
しかも二人でいる時の結束が強い。
割り込む余地がない。
(勝負は避けましょう。長期戦は不利)
玲香は即座に撤退を決めた。
この判断だけは、かなり賢かった。
詩織と萌音については、
最初から視界にすら入れていない。
(子ども向けイベント専門?
……ジャンル違い)
玲香は子どもが嫌いなわけではない。
ただ、興味がない。
自分のキャリアに、
何のプラスにもならないと判断しただけだ。
そして――
最後に残ったのが、月島小春だった。
(……この人)
リーダー格。
空気を読む力が異常に高い。
前に出ないのに、全体を掌握している。
(でも……)
観察しているうちに、
玲香は“ほころび”を見つけた。
(そそっかしい)
資料を落とす。
予定を一日勘違いする。
細かい詰めが甘い。
(ここね)
小春は、
「全体を考えること」に全力で、
「自分を守ること」がおろそかだ。
(取り入って、補佐役を演じて、
気づいたら主導権を握る)
玲香の脳内では、
すでに「臨時リーダー就任」までの道筋が完成していた。
「小春さんって、すごいですよね♡
私、尊敬してます♡」
その声は甘く、
その笑顔は完璧だった。
小春は照れて笑う。
「え、そう?
いやー、そんなことないよ」
(かかった)
玲香は内心、
小さくガッツポーズを決めた。
――だが。
彼女はまだ知らない。
このヒロ室では、
空気を読む人間が一番怖いということを。
小春は、
玲香の“取り入り方”を、
最初の三分で見抜いていた。
そして、
何も言わずに、泳がせているだけだった。
東日本ヒロインたちは穏やかだ。
だが、決して甘くはない。
佐々木玲香の
「仙台式・天下取り計画」は、
まだ誰にも邪魔されていない。
――いや。
邪魔されていないと思っているのは、本人だけだった。
物語は、
ここから静かに、そして盛大に、
ズレ始める。
次に笑うのが誰なのか。
それだけは、もう決まっている。




