杜の都のセルフ女王、世界制覇はまず自己紹介から
仙台という街は、ほどよく都会で、ほどよく地方だ。
新幹線も走るし、百貨店もある。
だが同時に、顔の見える距離感が残る街でもある。
佐々木玲香は、
その“ちょうどいい規模”で育った。
地元では「品のいい大学」として知られる私立大学に通う女子大生。
キャンパスでは「テレビに出てる子」としてそこそこ有名。
仙台ローカルの情報番組では、
天気のいい日は笑顔で商店街を歩き、
雨の日はカフェでケーキを食べながらコメントする――
そんな“ちょうどいい有名人”。
「仙台では、まぁ、知られてる方だと思います」
これが玲香の口癖だった。
“全国的に”とは言わない。
言わないが、言ってるような顔はする。
ローカルタレントとしての活動歴はそれなり。
だが、彼女の頭の中では、
すでに物語は次の章に進んでいた。
――全国。
――そして世界。
戦隊ヒロインプロジェクトの話を聞いたとき、
玲香は一瞬も迷わなかった。
(これ、踏み台に最適)
ヒーロー?
正義?
子どもたちの夢?
それはそれ。
大事なのは露出と名前と肩書き。
「戦隊ヒロイン出身です♡」
この一文が、どれだけ強いかを玲香はよく分かっていた。
だから東日本ヒロ室に足を踏み入れた瞬間から、
彼女の脳内では即座に“仕分け作業”が始まる。
(この人は年上、逆らわない)
(この人は穏やか、使える)
(この子は無害、踏んでも問題なし)
(この人は……リーダー、要注意)
協調か、踏み台か。
もしくは、その両方。
玲香の中に「横並び」という選択肢は存在しない。
だが、彼女は賢かった。
スタッフの前では。
遥室長には、
「勉強させていただきたいです♡」
隼人補佐官には、
「ご指導いただけるのが心強いです♡」
語尾にハートが付きそうなほどの低姿勢。
書類提出は早い。
挨拶は完璧。
スケジュール管理もきっちり。
フロント受けは、異様に良い。
「しっかりした子ですね」
スタッフの評価は概ねこれだった。
――だが。
ヒロイン側は、
なんとなく気づいている。
言葉は丁寧だが、
目が笑っていないこと。
拍手のタイミングが、
自分の評価を測るためのものであること。
そして何より、
“自分が中心でないと空気が冷える”という事実。
玲香は確かに容姿端麗だ。
都会的で、スタイリッシュ。
写真写りもいい。
だが戦隊ヒロインプロジェクトは、
容姿端麗のバーゲンセール会場である。
並べば並ぶほど、
「綺麗」だけでは埋もれる。
本人だけが、
まだそれに気づいていなかった。
(私なら、いける)
(ここで一番になれる)
(その先に、世界がある)
そんな玲香を、
東日本ヒロ室は今日も
ぬるく、穏やかに迎え入れている。
嵐が来るとも知らずに。
あるいは――
来ると分かっていて、静かに待っているのかもしれない。
杜の都からやってきた“セルフ女王”の物語は、
まだ始まったばかりだった。
そしてこの先、
彼女が本当に学ぶことになるのは――
「世界は、思ったより広くて、
ヒロインは、思ったより手強い」という現実である。




