杜の都から来た女王様(自称)、東日本ヒロ室に降臨す
新橋のヒロ室。
ここは戦隊ヒロインプロジェクトの心臓部であり、
同時に「人柄がすべてを決める場所」でもあった。
現在、東日本を拠点に活動するヒロインたちは、
ひとことで言えば――穏やかだった。
西日本組の赤嶺美月や西川彩香、西園寺綾乃のように、
一歩間違えば漫才大会が始まりそうな強烈個性はなく、
東日本組は総じて「空気を読む」「譲り合う」「角が立たない」。
年長者の麗奈と美波は、前に出すぎず後輩を立てる達人で、
リーダー格の月島小春は全体を俯瞰して絶妙にまとめる。
自己主張よりも調和。
ヒロ室には、ほんのりとした安心感が流れていた。
北関東スリーアローズの唯奈と結花は、
るみねぇこと木戸瑠海に引っ張られて北関東各地を巡業中。
地方イベントでの受けは上々で、
「ちょっと昭和」「でも安心」という不思議な人気を獲得している。
一方、問題児扱いだったベイサイドトリニティ――
澪、沙羅、理世の三人は、
現在すみれコーチのもとで再研修という名の再教育中。
子ども向けイベント担当の詩織と人気者の陽菜は相変わらずのんびりで、
最近は萌音と美紀も加わり、
会話は増えたが結論にはなかなか辿り着かない。
静岡と千葉で遠距離恋愛中(?)の
ひかりとみのりのグレースフォースは、
見ているだけで空気が柔らぐ安定感。
――そんな、
ぬるま湯のように平和な東日本ヒロ室に。
その人物はやってきた。
「今日は新しいメンバーを紹介しますら」
遥室長が、いつもの少し柔らかい駿河弁で切り出す。
「仙台を拠点に活動しているローカルタレントで、
今回、戦隊ヒロインプロジェクトに参加してもらうことになった方です」
扉が開いた。
ヒールの音。
わざとらしいほど背筋の伸びた歩き方。
「はじめまして♡」
声にハリがある。
笑顔は完璧。
だが――作り物だと誰でも一瞬で分かる笑顔。
「佐々木玲香です。
杜の都・仙台から来ました」
その瞬間、
詩織が小さく首を傾げ、
陽菜が無意識に「へぇ……」と相槌を打ち、
小春は「ふむ」と一拍置いて観察モードに入った。
玲香は、
挨拶しながら、もう始めていた。
(この人は静かそう…)
(この人は年上、手出し無用)
(この子は大人しそう、下)
(この人は…リーダー格ね)
視線が、
値踏みをしている。
「仙台では、テレビやイベントのお仕事をしてまして。
もっと大きな舞台に挑戦したいと思っていたところで……」
にこっ。
「このプロジェクトに声をかけていただいて、
本当に光栄です♡」
麗奈が一歩引いて頷き、
美波は静かに微笑む。
――が。
小春は気づいていた。
(この子……
仲間になりたい顔じゃない)
玲香の目は、
「横に並ぶ」目ではなく、
「踏み台を探す」目だった。
「皆さん、すごく……
あったかい雰囲気ですよね」
その言葉に、
ひかりとみのりが顔を見合わせて笑う。
「はい。うちは割と、のんびりで」
みのりが言った瞬間、
玲香の笑顔が一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、固まった。
(……ぬるい)
心の中で、確実にそう思った。
戦隊ヒロインを、
仲良しサークルだと思っているこの空気。
(ここで目立てば、
一気に上に行ける)
玲香は、もう決めていた。
この場所を、
踏み台にすると。
遥室長は、そんな空気を察しつつも、
あえて何も言わなかった。
「じゃあ皆さん、
これから一緒に活動していきますら」
拍手は、穏やか。
だがその裏で、
東日本ヒロ室は知らぬ間に――
新しい波乱の種を迎え入れていた。
静かな水面に、
小さな、しかし確実な石が投げ込まれた瞬間だった。




