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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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269/492

世界遺産より先に腹が減る――お好み焼き屋『みさちゃん』の正体

広島市内、路面電車の車庫から歩いて数分。

観光客が「え、ここ?」と一瞬ひるむような場所に、その店はある。


赤い暖簾。

年季の入った鉄板。

そして壁に貼られた、色あせたメニュー表。


店の名は――「みさちゃん」。


のどかの実家であり、広島市民の胃袋を半世紀近く支え続けてきた、いわば炭水化物の防災拠点である。


この店が生まれたのは昭和五十年代半ば。

きっかけは、のどかの祖父の死だった。


「男手がなくなったら、ワシがやるしかなかろう」


そう言って鉄板を買い、暖簾をかけたのが、のどかの祖母。

女一人で始めたお好み焼き屋だった。


場所は偶然ではない。

路面電車の車庫のすぐ横。

運転士たちが休憩に出てくるたびに、自然と腹が減る立地。


結果どうなったか。


「はい、いつもの」

「今日は肉ダブルで頼むわ」

「時間ないけぇ、焼き早うしてくれ」


――気づけば、運転士たちの半分が常連になっていた。


そして、その常連の一人に、若き日ののどかの父がいた。


最初はただの客。

次は「今日は休み?」と声をかける間柄。

やがて、鉄板の前で雑談が増え。


気づけば、

「ウチの店、手伝う?」

「あ、はい」


……という流れで、

父はいつの間にか江波家に婿入りしていた。


本人いわく、


「気づいたら名字変わっとった。お好み焼きは怖い」


とのこと。


父は現在、路面電車の運転士。

そして今も、休憩時間になると店に顔を出す。


「おばちゃん、いつもの」

「はいはい、あんたは黙っとき」


このやりとりを聞いて、初見の客は混乱するが、

常連は誰も気にしない。


父は誇らしげに言う。


「ウチのかーちゃんの焼くお好み焼きは、世界一じゃけぇ」


なお、これを一日に三回は言う。


店の知名度は、いつの間にか公式にもなっていた。


路面電車会社が発行する観光案内パンフレットに、

**「運転士の自宅近くのおすすめお好み焼き店」**として掲載。


家族全員が驚いた。


「なんでウチ載っとるん?」

「知らんうちに観光地になっとる…」


観光客が増えた結果、

のどかは大学帰りに半強制的に手伝わされるようになる。


鉄板の前に立つ、筋肉質な女子大生。

手際は良いが、声がでかい。


「マヨネーズ多め?

 ほいほい、そんなもん自分でかけんさい!」


観光客は一瞬たじろぐが、

食べ終わる頃には全員こう言う。


「……また来ます」


ちなみに店名の「みさちゃん」は、

祖母でもなく、のどかの母の名前。


祖母いわく、


「女の名前の店は覚えてもらいやすいんよ」


結果、半世紀。

看板は色あせ、鉄板は歪み、

でも味だけは変わらない。


のどかは言う。


「ウチの実家はな、店いうより拠点じゃけぇ。

 人も情報も腹も集まる場所」


戦隊ヒロインとして悪と戦う彼女だが、

その原点は――


腹を満たすことで、人を元気にする鉄板の前にあった。


今日も「みさちゃん」は焼いている。

世界情勢がどうなろうと、

路面電車が走る限り。


――まずは、腹ごしらえじゃ。

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