広島が世界で一番正しいと思っとる女、戦隊ヒロインに現る
江波のどかは、広島市からほとんど出たことがない。
理由は単純だ。
「出る必要、ある?」
海がある。山がある。川がある。
路面電車が走り、お好み焼きが焼ける。
のどかにとって、広島は“完成している街”だった。
戦隊ヒロインの中でも、この地元愛は千葉代表・館山みのりと双璧だ。
だが、のどかの場合は愛が重い。
疑いようもなく、迷いもなく、「広島が一番」と言い切る。
実家は広島市内のちょっとした有名店、「みさちゃん」。
――ここで「広島風お好み焼き」と言った瞬間、空気が凍る。
「それ言うたらアカン。
“広島のお好み焼き”じゃけぇ」
店は祖母と母が切り盛りし、のどかも暇を見つけては手伝う。
鉄板の前に立つ姿は堂々たるもので、
ヘラさばきは柔道の受け身のように無駄がない。
父は路面電車の運転士。
黙々と仕事をし、酒を飲むと少しだけ饒舌になるタイプだ。
そんな家庭で育ったのどかの体格は、
モデル体型が多い戦隊ヒロインの中で明らかに異彩を放っていた。
肩が広い。
太腿が太い。
重心が低い。
柔道有段者。
投げる、抑える、耐える。
全部できる。
制服の採寸の日、スタッフが静かに首を傾げた。
「……サイズが合いません」
「上のサイズでも無理です」
「既存サイズ、全滅です」
結論――新規製作。
当の本人は涼しい顔だった。
「まぁ、鍛えとるけぇね」
完成した制服姿は、確かにカッコいい。
整った顔立ちに、凛とした立ち姿。
ただし問題が一つ。
白いロングブーツから伸びる太腿が、
どう見てもプロレス寄りだった。
「給食のおばはんやん」
美月の一言で、場が崩壊する。
「誰がじゃ!」
「似合っとる似合っとる! 力仕事できそうやし!」
この二人は、出会った瞬間から漫才コンビだった。
のどかは「じゃかましいわ」と笑って受け流し、
美月は満足そうに親指を立てる。
のどかは戦隊ヒロインきっての武闘派だ。
だが、争いを好まない。
被爆四世として育った彼女は、
誰よりも「平和が壊れる理由」を知っている。
「ケンカは、負けじゃろ」
美月と彩香のくだらない言い争い――
どっちが正しいか以前に、
のどかは静かに割って入る。
「はいはい、両方アホ。終わり」
それでだいたい片がつく。
だが、悪を前にした時だけは別だった。
「正義のためなら、拳は引かん」
畳で鍛えた身体が、迷いなく前に出る。
逃げない。怯まない。折れない。
うるさくて、優しくて、地元が好きすぎる女。
江波のどかは、
戦隊ヒロインの中で、
いちばん素朴で、いちばん強い正義を背負っている。
そして今日も、当たり前のように言う。
「世界平和も大事じゃけど、
まず広島が平和じゃないと話にならんじゃろ」
この女、
間違いなく――頼れるし、うるさい。




