初手が強すぎる女 ― 広島から来た最終結論
大阪府内某所、ヒロ室西日本分室。
米国大使館占拠事件という、あまりにも重たい極秘任務が秘密裏に解決し、報道もようやく一段落。
ヒロ室には、久しぶりに平和すぎる空気が戻っていた――はずだった。
「だから言うてるやろ、あれは地毛やって!」
赤嶺美月が机を叩く。
「美月はん、あれはどう見てもヅラどす」
はんなりと、しかし今日はやけに強気な西園寺綾乃が即座に返す。
「なんでやねん、どこがやねん!」
「逆にどこが地毛どす?」
――そう。
戦隊ヒロイン西日本分室では、通販会社のI田社長・ヅラ疑惑という、もはや世界平和と何の関係もない論争が、再燃していた。
「私は綾乃の言う通りやと思うで。あれはヅラや」
彩香が腕を組んで参戦。
「いやいや、あの生え際は努力の結晶やと思う」
坂井まどかは美月側につく。
瞬時に分室はヅラ派 vs 地毛派で真っ二つ。
巻き添えを食らったのが紀伊ハンターの三人だった。
「え、えっと……私は地毛だと思います……」
あかりが恐る恐る言うと、
「私は……ヅラ、かな……」
麻衣が小声で続く。
「……美咲はどっちや?」
全員の視線が集まる。
「え? え? えっと……」
美咲が完全にフリーズした、その瞬間。
ガチャ。
ドアが開き、隼人補佐官が入ってきた。
「何の話してるんですか?」
「I田社長のヅラ疑惑や!」
全員が一斉に言う。
隼人補佐官は一瞬考え、真顔で言った。
「僕は……粉だと思います」
「粉?」
「どういう意味や?」
「髪を増やす、黒い粉です。振りかけて、定着させて、自然に見せるやつです」
「なんやそれ!」
「そんな魔法みたいなもんあるんか!」
隼人補佐官は、なぜかホワイトボードを使い、
**“髪を太く見せる理論”**を図解し始めた。
「つまり、地毛かヅラかの二択ではなく、第三の選択肢です」
「余計ややこしなっとるやないか!」
「世界の真理みたいに言うな!」
ひとしきり騒いだところで、隼人補佐官が咳払いをした。
「……では本題に入ります」
空気が、すっと変わる。
「戦隊ヒロインプロジェクトは、今後、中国・四国、そして九州地方にも本格的に展開していきます」
その言葉に、全員が姿勢を正す。
「本日、新しい仲間を紹介します」
ドアの向こうから、ゆっくりと足音。
現れたのは――
整った顔立ち。
だが、肩幅が広い。
太腿が、強い。
全体的に、圧がある。
「……強そう」
彩香が、思わず本音を漏らした。
「広島から来ました、江波のどか言います」
どぎつい広島弁が、分室に響いた。
「柔道は段持ち。戦うんは嫌いじゃないけど、平和が一番ええ思うとります。よろしくお願いします」
一瞬の沈黙。
そして美月が、にっと笑った。
「うち、あんたとはすぐ仲良うなれそうやわ」
のどかも笑う。
「そう言われると安心するわ。大阪の人、うるさいって聞いとったけど、想像通りじゃね」
「なんやと!」
一気に距離が縮まった、その瞬間だった。
美月が、思い出したように聞く。
「なあのどか。I田社長の髪型、どう思う?」
間髪入れず、のどかは言った。
「あれはカツラじゃけぇ」
即答。
一切の迷いなし。
「ほら見ぃ!」
「ほらぁ!」
ヅラ派が一斉に立ち上がる。
美月は一瞬固まり、次の瞬間、大笑いした。
「初登場でそこ行くんかい! 最高やん!」
こうして――
広島弁がきつくて、拳も重くて、結論が早い女、
江波のどかは、
戦隊ヒロイン西日本分室に、あまりにも鮮烈な第一歩を刻んだ。
この日から、
ヒロ室の議題に**「最終結論:のどか判断」**という項目が増えたことを、
まだ誰も知らない。




