紅と藍の密命 ― 戦隊ヒロイン極秘任務録 第18話 報道は静か、親父はうるさい ――極秘任務より危険な家庭内尋問
報道規制が敷かれて三日。
ワイドショーは急に芸能人の不倫と巨大パフェに戻り、
SNSも「結局よく分からんかったな」という空気に落ち着いた。
世間は静かになった。
だが――家庭は違った。
テーブルの上には、
焼き魚、肉じゃが、冷奴、そしてビール瓶が一本、二本、三本。
「いやぁ~、平和やなぁ~」
すでに出来上がっている赤嶺父、
箸を持つ手が妙に大きく揺れている。
美月は嫌な予感しかしなかった。
「なぁ美月」
来た。
「……なに?」
父はニヤニヤしながら、
一番聞いてはいけない質問を放り込む。
「アメリカの大統領夫人って、
どんだけ美人やったんや?」
母の箸が止まる。
祖父が新聞を畳む。
祖母が静かにお茶を置く。
――家庭内警報、発令。
美月は一瞬だけ考え、
無難かつ雑な回答を選んだ。
「そらぁ……
ハリウッド女優みたいな美人でしたわ」
父、身を乗り出す。
「ほぉ!?
ほな、アンジェリーナ・ジョリー級か!?」
「なんで実名出すねん!」
母の声が一段低くなる。
「……あんた」
父、気づいていない。
「いやな?
世界の大統領夫人やで?
そらぁ美人やろ?
なぁ美月、どんなドレス着てはった?」
次の瞬間。
パシン!
父の後頭部に、
母のスリッパが正確無比に命中した。
「いったぁ!!」
母、静かに笑顔。
「ええ加減にしなはれ。
娘がどこで何してたかより、
あんたは明日会社やろ」
祖父が追撃。
「酔うた勢いで国際問題にするな」
祖母がとどめ。
「ビールは一日一本まで言うたやろ」
父、しゅん。
「……はい」
美月、内心ガッツポーズ。
しかし父の戦いは、家の外でも続いていた。
「赤嶺さんさぁ」
同僚が声を潜める。
「娘さん、
例のニュースに関係してるってホンマ?」
父、即答。
「いやぁ~、
鳥取で免許合宿行っとっただけですわ」
「え?
でもCNNで……」
「世界のニュースはだいたい話盛ってますから」
上司が割り込む。
「赤嶺くん、
大統領と会ったって噂が……」
父、笑顔。
「夢の中では会いました」
部下が食い下がる。
「極秘任務とか……」
父、即切り返す。
「うちの娘、
極秘にするほど賢くないです」
この雑で明るい受け流し力に、
職場は次第に空気を読む。
「……ですよね」
「そうですよね」
赤嶺父、内心。
(あかん、
この調子やと
定年までこの話振られる)
一方その頃。
和室。
静かな庭。
抹茶の湯気。
京都経済界の重鎮たちが並ぶ中、
ひとりの男がそっと口を開く。
「西園寺さん……
お孫さんの件ですが」
場の空気が、
一瞬だけ止まる。
綾乃の祖父、
にこりと微笑む。
「ほほ。
若いもんはよう分かりまへんなぁ」
「……関与は?」
祖父、扇子を一度閉じる。
「さぁ。
あの子、
最近は大学と舞台で忙しゅうて」
「では、
アメリカの件は……」
祖父、間を置いて一言。
「風吹けば、
桶屋が儲かる話どすなぁ」
――完全封殺。
誰もそれ以上、踏み込めなかった。
京都の空気は、
疑問すらも“風情”に変える。
その夜、美月は布団に寝転び、天井を見る。
「……ほんま、
大変やったな」
スマホには、
綾乃からの一通。
《京都は平和どす
はんなり最強》
美月、笑う。
「せやな……」
世界は静かになった。
でも、家族も京都も、
それぞれのやり方で戦っていた。
――紅と藍は守られた。




