紅と藍の密命 ― 戦隊ヒロイン極秘任務録 第17話 公式コメントは、だいたい逆効果 ――“否定できない”は、ほぼ肯定や
報道は、もう十分に燃えていた。
いや、正確に言うと――鎮火寸前だった火に、灯油を注ぐ準備が整っていた。
霞が関某所。
壁は白、空気は重い。
並ぶのは無表情な官僚たちと、読み上げ用の原稿。
「……では、声明を発表します」
その瞬間、
全国の記者とネット民が一斉に前のめりになる。
【政府公式声明(要約)】
「中米某国に、日本人女性が入国した事実は否定できない」
「作戦への参加の有無については、個人のプライバシーに関わるためコメントできない」
――終了。
……の、はずだった。
記者席が一瞬静まり返り、
次の瞬間、ざわめきが爆発する。
「否定できない!?」
「コメントできない!?」
「それ、否定してないですよね!?」
ネットでは秒速で要約が流れる。
《政府「行ってないとは言ってない」》
《コメントできない=やってる》
《これはもう確定》
新橋のヒロ室。
モニターの前で、美月が両手で顔を覆う。
「……あかん。これは一番あかん言い方や」
綾乃は頭を抱えながら、冷静に分析する。
「“否定できない”は、
日本語としては“だいたい肯定”どす」
遥室長が遠い目で呟く。
「誰がこの文章書いたら……」
そして、事件は第二幕へ突入する。
記者が、
“あの人”を見つけてしまったのだ。
そう。
隼人補佐官。
カメラが回る。
マイクが突き出される。
「ヒロ室としての見解は!?」
隼人補佐官、
一瞬だけ迷い――
真面目に、誠実に、そして致命的に答えた。
「関与が噂されている二人ですが、
まだ女子大生でありまして、
本人たちの将来のためにも……」
――その瞬間、世界が燃えた。
《女子大生!?》
《二人!?》
《関与が噂!?》
《つまり関与してる!?》
美月、叫ぶ。
「言わんでええ!
なんで人数まで言うねん!!」
綾乃、即ツッコミ。
「“将来のためにも”は、
完全に“事実です”の前振りどす!」
遥室長、机に突っ伏す。
「止めるタイミング、
三秒遅かったら……」
SNSは完全に祭り状態。
《政府、ほぼ認めた》
《隠す気ゼロ》
《これは歴史的失言》
都市伝説勢も再点火。
《やっぱりCIA》
《いや宇宙人》
《女子大生=実験体》
美月がスマホを投げ出す。
「なんでウチら、
話すたびに話増えんねん!」
綾乃、苦笑。
「公式コメントは、
だいたい逆効果どす」
しかし――
さすがにここで大人たちが本気を出す。
その日の夜。
報道規制、発動。
各局に通達。
追加取材自粛。
推測報道の停止。
翌朝、
ワイドショーは急に静かになった。
「……以上、次のニュースです」
まるで何事もなかったかのように。
新橋のヒロ室。
嵐が過ぎ去った後。
美月がポツリ。
「……静かになったな」
綾乃が頷く。
「嵐の後は、
だいたい“なかったこと”になりますえ」
遥室長が締めくくる。
「だから言ったら。
公式コメントは、
出さないのが一番やって」
三人、深く頷いた。
――世界は救えた。
――だが、言葉の扱いは相変わらず難しい。
そして美月は、
心の底から学んだ。
「戦うより怖いもん、
公式コメントやな……」




