紅と藍の密命 ― 戦隊ヒロイン極秘任務録 第16話 全部盛りすぎやろ!ネット民の想像力が米軍超え
事件は解決した。
人質は全員無事。
世界はひとまず平穏を取り戻した。
――しかし、
インターネットだけは平穏を拒否した。
新橋のヒロ室、休憩スペース。
美月と綾乃は並んでスマホを覗き込み、同時に眉をひそめていた。
「……なあ綾乃」
「嫌な予感しかしませんえ」
案の定、トレンド欄は地獄絵図だった。
【都市伝説①】
「ヒロ室=CIA極東支部説」
《日本にCIAの出先機関がある》
《新橋はカモフラージュ》
《ヒロインはエージェント》
美月、即座に吹き出す。
「極東支部て! どこがやねん!
あの部屋、エアコンもマトモに効かへんのに!」
綾乃も冷静に切り捨てる。
「CIAはんが、
プリンで会議揉めると思いますかえ?」
確かに、
昨日も“カスタード派 vs チョコ派”で会議が止まっていた。
【都市伝説②】
「いや、エリア51絡み」
《米軍基地との極秘パイプ》
《UFO技術の応用》
《瞬間移動は既に実用化》
美月が画面を見つめ、真顔で一言。
「ウチ、飛行機でエコノミー乗ってたで?」
綾乃が追撃する。
「機内食、選べませんでしたえ」
――エリア51の技術、
もう少し快適であってほしい。
【都市伝説③】
「実は宇宙人が背後にいる」
《あの作戦は人類の技術では不可能》
《ヒロインの正体はハーフ》
《いやフル》
美月、腕を組む。
「ウチ、東大阪生まれの人類や」
「戸籍、きっちりありますえ」
綾乃がしみじみ。
「もし宇宙人やったら、
もっと英語上手なはずどす」
二人は同時に頷いた。
【都市伝説④】
「M資金、実はまだ生きていた説」
《戦後闇資金がヒロ室に流入》
《謎の予算》
《説明できない活動費》
美月が眉を吊り上げる。
「どこにやねん!
衣装代、いつもカツカツやろ!」
綾乃が遠い目をする。
「交通費精算、
三回差し戻されましたえ……」
M資金があるなら、
まずそこを何とかしてほしい。
【都市伝説⑤】
「戦隊ヒロインは実験体だった」
《人体改造》
《極秘訓練》
《感情制御》
ここで美月がスマホを置いた。
「感情制御できてたら、
ウチと彩香が毎回喧嘩せえへんわ」
綾乃、即答。
「それは無理どす」
ネットではさらに話が膨らみ続ける。
《次は月面基地》
《深海文明との接触》
《ヒロイン量産計画》
もう、誰も止めない。
美月が天井を仰ぐ。
「なあ綾乃、
ウチら世界救うより、
想像力止める方が難しいな」
綾乃は苦笑い。
「人は知らんことがあると、
全部ファンタジーで埋めたくなるんどす」
そこへ遥室長が通りかかり、
スマホを一瞥して一言。
「放っておくのが一番ら」
美月が小さくガッツポーズ。
「やった。否定せんでええんやな」
「ええ。否定すると次は“隠蔽だ”になりますえ」
二人は顔を見合わせ、同時にため息。
――こうして、
ヒロ室は今日も世界を救った後始末をしている。
ただし、
一番厄介な敵は
銃でも爆弾でもなく、ネット民の想像力だった。
そしてその夜もまた、
新たな都市伝説が生まれる。
《次回、戦隊ヒロインは火星へ――》
美月が布団に潜り込みながら呟いた。
「……もう、寝よ」
「賛成どす」
世界は救えても、
ネットは救えない。
それが、この国の現実だった。




