紅と藍の密命 ― 戦隊ヒロイン極秘任務録 第15話 正体不明の二人より、テレビのほうが正体不明
世界を震撼させた米国大使館占拠事件。
被害者ゼロという奇跡的な結末――
にもかかわらず、日本国内で一番荒れたのは、テレビのワイドショーとSNSだった。
まず火を噴いたのは、いつもの左派系メディアである。
「国外での軍事行動に日本政府が関与した疑い」
「憲法との整合性が問われる」
「若い女性二人を危険地帯に送り込むなど言語道断」
論調は相変わらず、
事件そのものより“怒る理由探し”に全力だった。
新橋のヒロ室。
テレビを見ていた美月が眉をひそめる。
「なあ綾乃、ウチら名前出てへんのに、ようここまで怒れるな」
「怒る練習は日頃からしてはるんやと思いますえ」
遥室長はリモコンを手に、無言で電源を切った。
「見続けると、精神衛生に悪いら」
一方その頃、朝のラジオでは空気がまるで違っていた。
ロンドン在住、歯に衣着せぬ物言いで知られる女性論客が電話出演。
パーソナリティーが慎重に水を向ける。
「正体不明の日本人女性二人について、どう思われますか?」
即答だった。
「まず“死者が出なかった”事実を評価すべきです。
それを見ずに条文だけ振り回すのは、思考停止ですね」
スタジオが一瞬静まる。
「彼女たちが“利用された存在”だと決めつけるのは、
若い女性の意思を軽視しているだけです」
美月はラジオに向かって小声で言った。
「この人、キレッキレやな」
人気ニュース解説のネット番組では、
保守寄りで有名な“作家兼・参議院議員”と、
保守系の科学者が並んでいた。
作家が笑いながら言う。
「名前も顔も出てないのに、よくもまあ叩けるもんですね」
保守系の科学者は腕を組む。
「科学的に言えば結果がすべてです。
被害ゼロ。これは成功です。感情論で否定するのは非合理的ですよ」
作家が頷く。
「勇気ある行動をした若者を、ちゃんと評価できない国は情けない」
綾乃はスマホを見ながら、しみじみ。
「理屈が通っとる話は、聞いてて疲れませんえ」
さらに別の配信番組では、
経済に強く、語気が常にフルスロットルの論客が吠えていた。
「これ、めちゃくちゃ単純な話ですよ。
世界的な危機を防いだ日本人がいた。それだけ!」
資料を叩きながら続ける。
「“誰が責任を取るか”ばっかり言うけど、
“誰が救ったか”を言わない国は衰退します!」
コメント欄が洪水のように流れる。
さらにその夜。
皇室や歴史に詳しいことで知られる作家も、静かに語っていた。
「名も顔も出ない。
それでも国際的な危機を救った行動があったなら、それは誇りです」
少し間を置いて、こう締めた。
「日本人として、胸を張れる話です」
ヒロ室の片隅。
美月と綾乃は並んでカップ麺をすすっていた。
「なんや、ウチらよりテレビのほうが大暴れやな」
「ええ。でも“正体不明”のままが一番安全どす」
美月がニヤリと笑う。
「ほな、正体不明同盟やな」
「その名前、ちょっとダサいどすえ」
二人は小さく笑った。
テレビの音は消え、
外の喧騒とは無関係に、
“名前の出ない英雄たち”の時間は静かに流れていく。
――この国で一番うるさいのは、
今日も当事者ではなく、コメンテーターだった。




