紅と藍の密命 ― 戦隊ヒロイン極秘任務録 第13話 余計な一言は、だいたい一番偉い人から出る
事件解決の翌夜。
ワシントン某所、白を基調にした格式高いホールで、非公式という名の、どう見ても公式なレセプションが開かれていた。
名目は「関係者への感謝」。
実態は「成功したらとりあえず集まって食べよう」という、極めてアメリカらしい発想である。
その会場の中心に、
赤と藍――美月と綾乃は、正装姿で並んで立っていた。
「……場違いどすなぁ」
綾乃が小声で呟く。
「なぁに言うてんねん。
無料の飯に文句言うたらバチ当たるで」
美月は相変わらずだ。
そこへ、金色のネクタイを誇らしげに揺らした人物が、大股で近づいてくる。
言わずと知れた、米国大統領である。
「レディース!
ユー・アー・ファンタスティック!」
満面の笑み。
距離感はゼロ。
ボディランゲージは多め。
同時通訳が慌てて訳す。
「『君たちは素晴らしい!』とのことです」
大統領は続ける。
「この国はね、勇敢な若い女性が大好きなんだ!」
(語弊)
「そして私は特に好きだ!」
(さらに語弊)
場の空気が一瞬、微妙に揺れる。
「……来たな」
と、美月が呟いた瞬間。
「さあ、スピーチを!」
と、大統領がマイクを向けた。
逃げ場はない。
美月は一歩前に出て、胸を張った。
「はい。
強気を助け、弱気を挫くのが――」
その瞬間。
「ストーーーップ!!」
綾乃と同時通訳が同時に叫んだ。
「美月はん!!
反対どす!!」
「助けるのは弱き者、挫くのは強き者です!!」
「今のは“強い者を助けて弱い者を殴る”になってます!!」
会場、爆笑。
大統領は腹を抱えて笑った。
「HAHAHA!
ユー・アー・ベリィ・オネスト!」
(誤訳だが、もう誰も気にしない)
気を良くした大統領は、さらに調子に乗る。
「どうだい?
このままアメリカに残って――
投打二刀流の野球選手みたいに、
外交も治安も全部やってみないか?」
もちろん、アメリカンジョークである。
だが、言い方が本気に聞こえるのが、この人の怖いところだ。
「市民権?
考えてもいい!」
綾乃が即座に一歩引いた。
「美月はん。
これは冗談どす。
笑うだけでええどす」
「せやな。
ワシ、英語より河内弁の方が得意やし」
大統領は満足そうに頷いた。
「グレート!
ユー・アー・トゥルー・ヒロインズ!」
この夜は、拍手と笑いの中で終わった。
――ここまでは、よかった。
問題は、翌日である。
大統領は、いつものように記者会見に立った。
そして、いつものように、
余計なことを言った。
「今回の事件はね、
日本の勇敢で若くてチャーミングな女性二人の活躍が大きい。
私は彼女たちの――大ファンだ!」
その発言は、数分後には世界を駆け巡った。
ニュース専用放送局の速報テロップ。
SNSの爆発。
各国メディアの憶測合戦。
同じ頃、ホテルのテレビを見ていた綾乃が、
静かにリモコンを置いた。
「……美月はん」
「ん?」
「これは――
大変なことになりそうどす」
美月は画面を見つめ、苦笑いした。
「せやな。
I田社長のヅラ疑惑で揉めてる場合ちゃうな」
こうして、
“名前は出ていないはずだった英雄”の物語は、
次の騒動へと転がり始める。
余計な一言は、
たいてい――
一番偉い人の口から出るのである。




