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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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紅と藍の密命 ― 戦隊ヒロイン極秘任務録  第12話 英雄の名は、まだ呼ばれない

中米某国で起きた米国大使館占拠事件は、

ある朝を境に、唐突に終結を迎えた。


犠牲者ゼロ。

人質全員解放。

犯行グループ壊滅。


あまりにも整いすぎた結末に、

世界のメディアは一斉に色めき立った。


米国の大手ニュース局。

英国の公共放送。

名前を少しだけ変えた、誰が見ても分かる世界的報道機関が、

連日この事件をトップニュースとして扱う。


「奇跡的な救出」

「外交史に残る解決」

「前例のない作戦成功」


だが、どの番組も同じ一点で足並みを揃えていた。


――誰が解決したのかは語られない。


英雄の名は、出ていない。

少なくとも、表の世界では。


日本でも、同じ空気が流れていた。


朝のワイドショーで、

キャスターが慎重な言葉を選ぶ。


「日本政府は今回の件について

 “関係各国と連携し、適切な外交努力を行った結果”

 とだけコメントしています」


歯切れの悪い言い回し。

だが、その曖昧さが、逆に想像を掻き立てた。


SNSでは、

「日本が裏で何かやったらしい」

「現地に日本人がいたとかいないとか」

そんな断片的な噂が飛び交い始める。


だが、どれも決定打にはならない。


なぜなら――

真実は、最初から表に出る予定がなかったからだ。


新橋、ヒロ室ミーティングスペース。


大型モニターには、

世界各国のニュース映像が無音で流れている。


解放された人質が家族と抱き合う姿。

涙を流しながら空を見上げる人々。


その中央で、

一台の黒電話が静かに鳴った。


遥室長が受話器を取る。


「……はい、ヒロ室です」


数秒の沈黙。

次第に、彼女の表情が変わる。


「――はい。

 ……はい、確認しました」


電話の向こうから聞こえる声は、

現地に同行している隼人補佐官だった。


「作戦、完了しました」


短く、しかし確かな声。


「人質は全員解放。

 負傷者なし。

 美月さん、綾乃さんも無事です」


遥室長は、受話器を握る手に力を込めた。


「……本当によかった」


その一言に、

張り詰めていた緊張がにじむ。


受話器を置いた遥室長が、

ゆっくりと波田顧問の方を向いた。


「――成功です。

 二人とも、無事です」


その瞬間、

波田顧問は深く椅子に身を預けた。


何も言わない。

ただ、静かに煙草を取り出し、火を点ける。


一服。

もう一服。


吐き出された煙が、

天井へと溶けていく。


「……上出来だ」


低く、静かな声。


それは、

昭和の刑事ドラマのエンディングで、

すべてが終わった後に石原裕次郎が見せる、

あの無言の笑みによく似ていた。


大仰な歓声も、

拍手もいらない。


ただ、

生きて帰ってきたという事実だけで、十分だった。


だが、安堵はすぐに引き締め直される。


遥室長が口を開いた。


「改めて確認します。

 この件にヒロ室が関与していた事実は――」


「存在しない」


波田顧問が即座に遮る。


「記録もない。

 報告書も残らん。

 関係者は、ここにいる連中と、現地の限られた人間だけだ」


遥室長も頷く。


「美月さんと綾乃さんは、

 “存在しなかった人”です」


冷たい言葉。

だが、それは二人を守るための、最善の選択だった。


英雄として称えられることはない。

勲章もない。

名前が歴史に刻まれることもない。


それでいい。


このプロジェクトは、

表に立つために戦う場所ではない。


モニターには、

事件を総括する特集が流れる。


キャスターが、こう締めくくった。


「真相は依然として明らかにされていません。

 しかし、確かなのは――

 多くの命が救われたという事実です」


波田顧問は、その映像を見つめながら、

誰にも聞こえない声で呟いた。


「……ようやったな」


名前は呼ばない。

呼べない。


だが、この部屋にいる者だけは知っている。


紅と藍の二人が、

確かに世界を救った夜があったことを。


そして――

英雄の名が出ていないからこそ、

この物語は、まだ終わらない。


世界は静かに、

次の波紋を待っていた。

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