紅と藍の密命 ― 戦隊ヒロイン極秘任務録 第11話 お待たせは一瞬、去り際は永遠
銃声が止んだと思った、その直後だった。
静寂は長くは続かない。
建物の奥、崩れた柱の向こうから、
まだ生き残っていた敵が姿を現した。
数は多い。
弾倉は心許ない。
背後は行き止まり。
美月が短く息を吐く。
「……囲まれたな」
綾乃は銃を構え直す。
表情は変わらないが、
脳裏に浮かぶ計算はどれも詰みに近かった。
その時だった。
高い天井の梁の上。
本来、誰も立てないはずの場所に——
影がひとつ、逆さに揺れていた。
次の瞬間、
スポットライトでも当たったかのように、
その影が軽やかに舞い降りる。
ヒールの音。
布が翻る音。
「——お待たせ♡」
場違いなほど艶のある声。
敵も、味方も、一瞬だけ動きを止めた。
長い脚。
しなやかな身のこなし。
まるで舞台の中央に立つプリマ。
高田美雪だった。
彼女は銃を持たない。
代わりに持っているのは、
相手の視線を奪うための存在感そのもの。
敵が反射的に引き金を引く。
——だが、弾は当たらない。
美雪はそこにいない。
次の瞬間、
敵の背後に、もう一人の“彼女”が現れる。
煙。
閃光。
錯覚。
「な……っ!?」
男が倒れる。
別の男が、味方を撃つ。
誰が敵で、誰が本物なのか。
分からなくなった時点で、勝負は決していた。
美雪は流れるように歩く。
踊るように回る。
そして、触れただけで戦況が崩れる。
美月と綾乃は、ただ呆然と見ていた。
「……あれ、現実か?」
「夢やったら、もう少し優雅どす」
そんなやり取りをしている暇はない。
最後の敵が崩れ落ちる。
静寂。
美月が、思わず声を上げた。
「ちょ、ちょっと待って!
なんでここに——」
美雪は振り返らない。
歩きながら、肩越しに一言だけ残す。
「後輩のピンチを、
見過ごすわけにはいかないでしょ」
それだけ。
次の瞬間、
彼女の姿は、煙と共に消えていた。
——まるで最初から、
そこに存在しなかったかのように。
作戦は終わった。
人質は全員救出。
特殊部隊側の犠牲者もゼロ。
奇跡的な成功だった。
歓声が上がる。
抱き合う人々。
泣き崩れる家族。
だが、美月と綾乃は笑えなかった。
瓦礫の向こう。
もう動かない少年の姿が、
脳裏から離れない。
ルイス。
彼は敵だった。
それでも、友だった。
綾乃が小さく言う。
「……助かった人がいる。
それは、間違いないどす」
美月は頷く。
「せやな。
でも、全員は救えへんかった」
勝利と喪失は、同時にやってくる。
それを、二人は身をもって知った。
遠くで、夜明けの光が差し込む。
新しい一日が始まる。
——だが、
この夜を忘れることは、きっと一生ない。
任務は終わった。
物語は、まだ終わらない。




